死ぬまでに絶対に読むべき!おすすめの小説50選【本・書籍で知識を得れば、人生が豊かになる】

小説嫌いのできるまで

小説を読む。
この言葉に何となく嫌な感じを受ける人は、きっと小さい頃に親から「●●ばかりしてないで小説でも読みなさい」的な事を言われた経験があるのではないでしょうか。
というのも、世の中には「小説を読むと為になる」とか「教育のために小説を読ませましょう」とかおっしゃる教育評論家や知識人が多いですから、無理もない事です。
で、そんな言葉に影響された親御さんや学校の教師から無理やり小説を読まされて……今に至る。
これでは嫌いになっても仕方がないですね、むしろこれで好きになれと言われてもそんな無茶な話はないわけです。
こうして多くの小説嫌いが世の中に生まれてきて、その中の一人があなたかもしれないわけですね。

小説で勉強なんておかしな話だ

では実際、小説は何かの為になったり勉強になったりするのか。ですが、これは一言でいうと、その通りです。
それは間違いないのです、深い情操教育にもなりますし日本語の能力も読解力も文章力も上がります。世の中で文章が得意な人のほとんどは、小説好きです。
しかしです、そんな人たちが勉強として為にすることを目標に小説を読んだか、と言えばそれはNOです。
なぜなら、小説は娯楽ですから。
大事なのは、小説を楽しんで読むことです。もう一度言いますが小説は娯楽です、テレビや漫画・アニメ・映画、そういったものと同じジャンルのものです。
ですから今から紹介する本は、決して勉強や学びにすることを目標には読まないでください。
どれも本当に面白いおすすめの名作小説ばかりです。リラックスタイムの娯楽としてお楽しみください。

死ぬまでに絶対に読むべき!おすすめの小説50選

1|ほんの少しの不思議体験「ボッコちゃん」星新一(新潮文庫)

まず一番初めは、本当に小説が苦手の方でも読めるものを用意いしました。
著者の星新一は、日本にショートショートというごくごく短い形式の小説を広めた、日本SF作家の第一人者とでもいうべき人です。
簡単な言葉、シンプルな文章、そして心を揺さぶる文章のオチ。その簡潔さから小学校の国語の教科書にも作品が使われますが、決して子供向けではありません。
その短い作品で繰り広げられる世界観は、時代を経た現在の大人が読んでも、深く考えさせられるものばかり。
しかも一冊の本に30近い作品が収められていますから、ちょっとした休憩時間にサッと読むにはこれ以上に適したものはありません。
それはまさに大人の童話というべき世界観。
稀代のストーリーテラーの作り出した、どこかで見たことのある異次元に、迷い込んでみてはいかがでしょうか。

2|笑って笑えるパスティッシュ「蕎麦ときしめん」清水義範(講談社文庫)

これもまた、小説初心者でも十分楽しめる、日本初のパスティッシュ小説の名手、清水義範の一冊です。
ところで、皆さんはパスティッシュ小説というものをご存知でしょうか。パスティッシュ小説とは、もともとフランス文学界にある言葉で、模倣文学。ともいわれます。
模倣と言ってもパクリではなく、文豪の特徴的な文体から、駅の掲示板の文体、新聞広告の文体、はたまた素人論文の文体など様々な文体をまねて小説を書き上げることを言います。
そしてこの作者清水義範はその分野において他の追随を許さない名作家なのです。
その技法自体、非常に面白く興味深いものですが、清水義範にかかれば、もう別の意味で面白い。
それは、ふむふむなるほど、な面白さではなく、電車で読むのをはばかられる類の笑いだしてしまう面白さ。
小説を読んで爆笑する、そんな世界もあるのです。読んで損のない、一冊です。

3|不器用だった青春時代の記録「ぼくは勉強ができない」山田詠美(新潮文庫)

著者は明治大学文学部中退後、ホステスとして働きながら小説を書き、処女作「ベットタイム・アイズ」でなんと文藝賞を受賞した、山田詠美さん。しかもその処女作は芥川賞の候補になり、その後別作品で直木賞を受賞すると、数々の賞をその後も受賞し続けている、80~90年代を代表する作家のひとりです。
この小説は、一人の男子高校生が、世の中の当たり前の価値観の中で、自分だけの価値観を胸に生きてゆく。そんなストーリーになっています。
その内容自体は、高校生が読めば共感し、大人が読めばその甘い認識と若さに羨望と侮蔑を覚えるような内容で、心をくすぐられる快感を覚えるようなものです。
しかし、この本のおすすめポイントは、比喩の巧みさ。
難解な考えをすっと胸に収めてくれるその比喩表現のうまさは一読の価値があります。
甘酸っぱい青春時代の自分をちょっと切なく思い出す、そんな一冊です。

4|男のロマンがあふれだす「老人と海」アーネスト・ヘミングウェイ(新潮文庫)

この作品は、言わずと知れたアメリカ文学の巨人。アーネスト・ヘミングウェイの代表作の一つ。
ヘミングェイと言えば「誰がために鐘はなる」「武器よさらば」「日はまた昇る」など、一度はどこかで聞いたことのある作品を多く世に残した文豪。
そんな大文豪の作品の中で一番読みやすく、わかりやすいのがこの「老人と海」です。
この物語の主人公は、一人の老人。
その老人がたった一人で海へ出て、巨大なカジキやサメとの戦いを通じ、大いなる自然との対比をもって人間の勇気や自然の壮大さを描き切ったのがこの作品です。
と、いろいろな書評にそのようなことが書いてありますが、そんなのすべて無視でただ単に読んでみてください。
そこにはそんな小難しい理屈は抜きにして、心から湧き上がってくる熱い男のロマンが存在します。
冒険と挑戦。ページを開けばそこにあるのです。

5|思わず鳥肌!なミステリー短編集「緋(あか)い記憶」高橋克彦(文春文庫)

最近ではミステリー小説と言えば、推理小説も含んだ謎解きもの全般を指すことが多いですよね。
しかしこの直木賞作家である高橋克彦の「緋い記憶」は、ミステリーという言葉に忠実な、不思議な恐ろしさにあふれた一冊です。
全部で7つのお話が収録されたこの本。そのほとんどが、読み進めていくごとにぞわぞわと心の底をなでられるような感覚にさせられ、最後にはぞっと鳥肌が立つ様な恐ろしさにあふれています。
その鳥肌な感覚を支えているのは、この小説にあふれる、生の感触。
不思議な出来事、不思議な世界観の中にあって、まるで血が通っているかのような人物描写と体温を感じるような表現は、まるですぐそばで起こった出来事の様。
ありえない話に満ちる、自らの身に起こりそうな感覚。
巧みな文章表現は、こんな変わった世界に人を現実感をもって容易に引き込んでしまう。そんな力を感じさせます。

6|はかなくも美しい武士の青春「堀部安兵衛」池波正太郎(新潮文庫)

池波正太郎と言えば、「鬼平犯科帳」「仕掛け人藤枝梅安」「剣客商売」など数々の大ヒットドラマの原作者としても同じみの、時代小説を語る上で欠かすことのできない人物。
この作品は、そんな池波正太郎の記した伝記小説であり、また極上の青春小説でもあります。
主人公の堀部安兵衛は年末おなじみ「忠臣蔵」の登場人物の中でも一番人気を誇る若き剣豪。
その忠臣蔵、つまり赤穂浪士討ち入り事件とともに、高田馬場の敵討ちを合わせ、その生涯において二度の敵討ちを経験するという数奇な人生を生きた人物です。
そんな数奇な人生を生きた安兵衛の一生を、稀代のエンターテイナーである池波正太郎が描き出したのですから、それはもう血沸き肉躍る内容であることは言うまでもありません。
敵討ちという特異な運命に身を投じた一人の若き剣豪の、華々しくも悲しい人生に、きっと引き込まれることでしょう。

7|不条理という名の美学「異邦人」アルベルト・カミュ(新潮文庫)

太陽がまぶしいから人を殺した。
これはこの本の主人公ムルソーが殺人動機を聞かれた時の理由。
不条理に不条理を重ね、そこから見えてくる本当の不条理をあぶりだす。ノーベル文学賞作家であるアルベルト・カミュの記したこの一冊は、そんな彼の不条理文学の頂点の一つです。
物語自体は、これと言って何回でもなく、最後まですんなり読み終えることが出来ます。しかし、そのあとにいくつもの「?」が浮かぶだろうとも、思います。
しかし、それで何の間違いもありません、それこそがこの本のすばらしさの一つなのです。
主人公ムルソーの行動はそのどれをとっても、普通に生きる一般の人間には全く共感できない、まさに不条理というべきもの。
しかし、物語を読み終え、その多くの「?」を考え直して、ふと納得がいったその時に、きっと不条理の向こうにある本当の不条理が見えてくるはずです。

8|掻きむしりたくなる掻痒感「変身」フランツ・カフカ(新潮文庫)

朝起きてみたら、自分が毒虫になっていた。
そんな奇妙でしかもなんとも絶望的な男、グレゴール・ザムザの人生を描いたドイツ文学の巨星フランツ・カフカの代表作がこの作品です。
そんなこの作品の注目すべき点は、毒虫という言葉の意味。
家族のために身を粉にして働いてきた男ザムザが、その毒虫に変じてしまう事でいったいどのように家族の中で扱われどのようにその人生を閉じるのか。
その奇妙な世界観に魅了されると同時に、毒虫というものが本当に表している本質に気づいて、人とそれが構成する社会の恐ろしさに気づいて身震いをする。
そして、自らにそんな瞬間が訪れることを想像して、その身を掻きむしりたくなる。そんな作品です。

9|事件解決後に見える真実「東京下町殺人暮色」宮部みゆき(光文社文庫)

現役ミステリー作家でも飛びぬけた売れっ子である宮部みゆき
彼女の代表作は「理由」「火車」など枚挙にいとまありませんが、ここでお勧めしたいのはこの作品です。
彼女の作品の特徴は、重たいテーマとそれを最後まで感じさせない軽妙なストーリー運び。
この作品においても、とある刑事の息子と家政婦のハナという、何とも凶悪事件に不釣り合いな二人が、難事件へと挑んでゆきます。
軽快に進んでゆくストーリーと深まる謎、推理小説としても上等な真相と事件の解決。
そして、ここで、もう一つの、いや宮部みゆき作品最大の特徴である、事件の真相とは別の物語の真意が最後に明らかになります。
事件の最後まで飽きさせない物語は多くても、事件の解決した後に本当の終わりがあるという宮部式ミステリー。
おすすめの一冊です。

10|日本語はこんなに面白い「舟を編む」三浦しをん(光文社文庫)

ここでは、海外文学に関して超有名作を日本文学においてはちょっと隠れた名作をおすすめしているのですが、その基準を超えてお勧めしたいのがベストセラーの本作 三浦しをんの「舟を編む」です。
この作品は、辞書編纂という特殊な仕事を通して、日本語というものの壮大な荒海に乗り出す船を編んでいく人たちの物語。
そこには日本語というものの魅力にあふれています。
とはいえ、内容は非常に軽妙で読みやすい。「舟を編む」と一見いかめしいタイトルとや辞書編纂という小難しい仕事をテーマにしているとは思えない、ライトな読み口。
これをライトノベルと称する人もいるほどです。
小説初心者も日本語に興味がある人も、ぜひ読んでおくべきおすすめ一冊です。

11|破天荒な青春の喜劇「69」村上龍(文春文庫)

先に断っておきますが、タイトルはシックスティーナインです、念のため。
と、やや下品な紹介をしても、全く問題ないと思えてしまうのが村上龍の「69」つまり、本作です。
この小説、一言で表してしまうならば、それはもうハチャメチャで破天荒な大爆笑の小説。と、言うのが一番正解ではないでしょうか。
まず、決して人前で読まないことをお勧めします。きっと恥をかきます。もしくは、笑いをこらえて読んではもったいない作品です。
怒涛の展開と、スムーズな読み口。次々に襲い来る笑いと感動の嵐。
しかし、それが過ぎ去った後、ふと、自分の人生に目を落としたくなる作品です。そして、少し悲しくなる、本作はそんな作品なのです。

12|村上春樹はここにいる「1973年のピンボール」村上春樹(講談社文庫)

村上春樹の代表作を薦めてくれと言われて、この作品を勧める人はいないだろう。そう思える一冊を紹介します。
普通、村上春樹の代表作と言えば「海辺のカフカ」「ノルウェイの森」「IQ84」などがあげられますが、村上春樹という人物の原点ともいうべき要素がちりばめられているのが、本書を含めた鼠三部作。
つまり「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」の3作なのですが、お薦めの1冊はその第2作目である本書です。
3部作の2つ目を薦める時点で、もう2作品も読んでほしいのは言うまでもないことですが、もっとも村上春樹らしさが表れているのは、間違いなく本作。
年齢を重ね、様々な作風をあらわす村上春樹の本質は、きっとここにあるのです。

13|悲運にもまれた真実の愛「レ・ミゼラブル」ヴィクトル・ユゴー(角川文庫)

本当は「ああ無常」という作品名で紹介したいのですが、残念ながらそのタイトルでは子供用の作品しかありません。
と、いうのも、まさにこの作品は「ああ無常」というタイトルをまず心に入れてから読むべき作品だと思うからです。
もちろん「レ・ミゼラブル」というタイトルはフランス語で同じような意味を持つ言葉ですが、しかし、フランス語では伝わらない。
そんな、本作では、まさに「ああ無常」とつぶやきたくなる出来事が、次々に主人公ジャン・バル・ジャンに襲い掛かかってゆきます。
そして、そんな「無常」の日々で手に入れた、一つの小さな希望とでもいうべき愛。
読み終わった後、その「愛」だけは、揺ぎ無い「無常」を超えたものであることに気づくことでしょう。
そしてタイトルの本当の意味に気づくはずです。

14|腐れ行く世界の甘い匂い「夏至南風」長野まゆみ(河出文庫)

初めに断っておきますが、この作品は(というか長野まゆみ作品の多くは)少年愛要素、特に同性間の少年愛が描かれています。
そういったものが特にお嫌いな方にはお勧めできません、しかし、何とか我慢できるという人はぜひ読んでほしい。そう思えるのが本作です。
この作品、全体的に、甘く気だるい南国の雰囲気に満ち溢れ、そして、その内容は、腐れゆく果実の甘い腐敗臭を思わせるどこか甘やかで凄惨な事件に満ち溢れています。
そんななか、起こるべくして起こった一つの殺人事件。
しかしこの作品は、その事件を淡々と描き、そして許容するだけで、その殺人事件の真相に迫ったりしません。
そんな不思議で甘美で匂い立つような物語。ぜひお薦めです。

15|少年時代という名のガラス細工「少年たちの終わらない夜」鷺沢萠(河出文庫)

数々の新人賞を受賞し、何度も芥川賞候補になり、そしてその美しい容姿から美人作家として名を馳せた鷺沢萠。
残念ながら、36歳という短い生涯を自らの手で終わらせてしまった彼女の遺した作品の中で、ぜひともお勧めしたいのがこの作品です。
4本の短編によって構成される短編集であるこの本は、表題の作品を含め、一貫して少年時代というものの特異性を描いています。
少年と言っても、ハイティーンの子供たちの話ですが、そんな青春時代ともいわれる時代の持つ、憧れるほどに美しく、透明で、そしてもろく壊れやすく、触れれば怪我をしそうな、そんな特別な人生の一瞬をうまく切り取った本作。
読み終わった後に心に去来する何とも言えない喪失感は、この作品の上質さを物語っています。

16|中国の忘れえぬ裏歴史「ワイルド・スワン」ユン・チアン(講談社文庫)

中国で産まれ現在イギリスで暮らす中国人、ユン・チアンの祖母の代から三代にわたる、壮絶な家族の歴史について書かれたのが、本作「ワイルド・スワン」。
日中戦争から、共産党軍対国民党軍による内戦、中華人民共和国の成立。そして、文化大革命。
世界的に見ても類を見ないほどの激動の歴史を歩んだ、お隣、中国の真実の歴史が、ここにはありありと描かれています。
その内容は、あまりに凄惨でむごく、悲しい内容となっています。
しかし、だからこそ、そんな時代を生き抜く3世代の家族の、その信念と愛の美しさが際立って伝わってくる。
今や世界の大国となり日本にも欠かせない中国という国の一つの真実。読んで損はありません。

17|面白くも壮絶なアルコールとの戦い「今夜、すべてのバーで」中島らも(講談社)

著者は、小説のみならず、エッセイ・劇作家・コピーライターとそのマルチな才能で80~90年代を駆け抜けた、天才中島らも。
その中島らもの、自らのアルコール依存症との戦いを投影して書き上げたのが、この「今夜すべてのバーで」です。
アルコール依存症という、それを患っている本人もまた周りをも傷つけてしまう厄介な病に、この物語の主人公はユーモアと溢れる感性で戦いを挑んでゆきます。
病院という閉ざされた空間で出会う数多くの個性的なメンバー。
そんな不思議な環境の中で主人公はいかにしてアルコール依存症と戦い勝利したのか。
そして、何を手に入れた、いや取り戻したのか。
お酒好きの人もそうでない人も、読んで楽しい一冊です。

18|モデルルーム・ファンタジア「天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語」中村弦(新潮文庫)

新人作家にして、第20回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した、本作と本作者。
その出来栄えは、まさに大賞受賞にふさわしい出来で、とても新人作家とは思えない上質の仕上がりとなっているのが本作です。
内容は、笠井泉二という天才建築士が建てる不思議な建物を基軸に書かれているファンタジ-小説で、ファンタジー小説にありがちなわかりやす異次元ものではなく、リアルな描写がグッと現実感を高めてくれています。
体裁としては短編小説ですが、それぞれが複雑に絡み合いながら絶妙に配置されているのは圧巻。
作者の描くあまりに不思議な建物の数々をご覧になってはいかがでしょうか。

19|復讐という自己表現の末路「モンテ・クリスト伯」アレクサンドル・デュマ(岩波文庫)

言わずと知れたフランス文学の超大作「巌窟王」という別名でご存知の方も多いと思います、アレクサンドル・デュマの「モンテクリスト伯」
ハリウッド映画化はもちろんのこと、宝塚の演目としても、最近では漫画家までされている超有名作です。
どうしてもフランス文学というと、椅子に座って背筋を伸ばして読んでしまいそうですが、この「モンテクリスト伯」はエンターテインメント性の強い作品。
実は、寝っ転がって読むくらいがちょうどいい作品です。
タイトルと背景の仰々しさに惑わされず気楽に読んでみてはいかがでしょうか。

20|大江戸悪党名鑑「天保悪党伝」藤沢周平(新潮文庫)

この作品は、池波正太郎と双璧をなす娯楽時代小説の大家。藤沢周平の作品。
内容は、講談や歌舞伎の演目として扱われる、天保六花撰お話です。
悪党と言っても、どこか憎めない連中の繰り広げる、人情と愛に満ち溢れた6編の短編によってつづられる本作品。短編集ですが、すべてお話はつながっています。
吉原の売れっ子花魁三千歳という女でつながる、それぞれの悪党が、互いに協力し合い反駁試合、そして恋のさや当てを繰り返しながら、最後に大ばくちに打って出る。
どこか哀愁漂う、人間臭い悪党の活躍が見ものです。

21|独立国家”大阪国”「プリンセストヨトミ」万城目学(文春文庫)

奇想天外な話を書かせれば右に出るものがいないと言っていい、万城目ワールドの中でも有名な作品。
映画化もされたことのある本作は、まさに万城目ワールドといった風情の日常に潜むおかしな世界のお話です。
何せ、大阪城の直下に「独立国家大阪国」の本拠があり、しかもその大阪国の国民が、皆で豊臣秀吉の末裔である姫を守っているというお話しなのですから。
と、書くと、ハチャメチャコメディーの様ですが、そこは万城目学。
奇想天外でおかしな世界を、違和感なく現実に閉じ込めて、リアリティーをもって描き出しているのはもちろんの事、きちんとそこに人情を絡ませて目頭を熱くさせる。
設定の突飛さで敬遠していると損をする。そんな一冊です。

22|男女の数だけ営みはあるものです「親指Pの修業時代」松浦理英子(河出文庫)

どこにでもいる、いや、ちょっと奥手な女子大生、一実。そんな彼女に、ある日突然とんでもない出来事が襲い掛かる、そう、朝起きたら足の親指がペニスになっていたのである。
と、いうお話です。
いや、いったいどのようなことがあったらこんな発想が思い浮かぶのか、作者である松浦理英子の頭の中を覗いてみたいものですが、しかし作品としてはしっかりとした上質の作品です。
突然の変化の後、一実は、今まで自分の常識の外にいた数多くの変わった「性癖」を持つ男女に出会ってゆきます。
そうして、いろんな意味で成長してゆく一実の成長の記録。
あなたものぞいてみませんか?

23|かつて少女であった全ての人に「十四歳のエンゲージ」谷村志穂(講談社文庫)

「余命」「海猫」などの映画の原作、そして「結婚しないかもしれない症候群」というドラマの原作で知られる、谷村志穂の作品。
北海道生まれの彼女の作品の特徴は、その出身地ゆえなのか、冬の描写が本当にうまいという事です。
そして、この作品における十代の少女の、その短い少女期特有の鋭さや痛々しさ、そして純粋さや美しさが、その冬の描写と相まって、美しい程に悲しい物語を作り上げています。
不良というものにあこがれながらも、優しい家族のぬくもりを完全に捨てきれない主人公。
そんな少女の、アンバランスで不確かな日常をくっきりと浮かび上がらせる筆力。
大人になりたい心となりたくない身体。憧れと恐れ。愛と現実。
羨ましいほどに葛藤にあふれた生活をおくる少女のお話です。

24|私はガラスの人形と呼ばれていた「マリオネットの罠」赤川次郎(文春文庫)

言わずと知れた、間違いなく20世紀を代表する推理小説家。
いや、全てのジャンルを束ねてもやはり20世紀を代表する赤川次郎の作品。
「三毛猫ホームズシリーズ」「3姉妹探偵シリーズ」「セーラー服と機関銃」「探偵物語」などなど、映画化ドラマ化ゲーム化に至るまで代表作をあげれば枚挙にいとまのない大作家である赤川次郎。
そんな、ユーモアミステリーの大家として名を馳せた彼の作品の中でも、ユーモアの少ない本格派ミステリーが本作品です。
数多い赤川マニアの中でも、最高傑作に推す人が少なくない本作は、推理小説の枠を超えたしっかりとした人間ドラマがその一押しポイントとなっています。
しかし、読みやすくわかりやすい彼の文体はそのままなので、本格ミステリー初心者には絶好の一冊となっています。
ぜひ、お薦めです。

25|こらえてもあふれる涙「壬生義士伝」浅田次郎(文春文庫)

幾多の修羅場を超え、血風をくぐって、それぞれがみな戦う鬼となっていった新選組の中にあって、一人最後まで庶民の心と頑なな優しさを失わなかった男。吉村寛一郎の見た幕末。
おなじみの近藤や土方、沖田や斎藤といった面々を浅田次郎の視点で描くこの作品は新撰組ファンなら必ず読むべき作品です。
もちろん新選組や幕末に興味がない人が読んでも、間違いなく納得できる作品。
それでなくとも幕末や新選組というのは、小説でも漫画でもドラマや映画でも語り尽されるという言葉にふさわしいほどに、新視点の出にくい題材です。
しかし、この作品では本当に新しい幕末の切り口を見ることが出来ます。
そして、最後は必ず泣いてしまうと思います。泣きたいから出る涙でも、自然にあふれる涙でもなく、こらえようとしてもこらえきれない涙があなたの頬を伝う事でしょう。

26|SFファンタジー中国古典「封神演義」作者不明(講談社文庫)

まずはこの本の作者について、この人ではないだろうか?という学説はありますが確定ではないので不明としておきます。
さて、この「封神演義」大ヒット漫画のタイトルとしてご存知の方も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介するこの小説版封神演義は、その大ヒット漫画の原作となった中国の明代に書かれた古典文学です。
とはいえその内容、日本の古典文学を想像していると驚くこと間違いなし。
漫画もご覧になったことのない人に説明しますと、この作品は、数多くのそれぞれ個性的なキャラクターが、これまた個性的な必殺の武器である「宝貝」を持って戦うというお話。
奇想天外なその内容は、まさにファンタジーSF小説と呼んでもおかしくない内容となっています。
数百年前の中国人のあふれだす想像力とに感心しつつも、現代においても間違いなく通用するそのSFバトルはまさに必読です。
ちなみに、某有名漫画の原作ではありますが話の内容は違います。お気を付けください。

27|平安貴族の恋絵巻「源氏物語」作・紫式部 訳・瀬戸内寂聴(講談社文庫)

中国古典がSFファンタジーなら、日本古典はこの恋愛小説の元祖「源氏物語」を紹介したいですね。
現代語訳は、さすがに古典の大作と言いう事もあって、谷崎潤一郎や与謝野晶子など数々の大物が本に表していますが、読みやすさとわかりやすさという点で、ぜひ、この瀬戸内寂聴の一冊をお勧めしたい。
物語の内容については、さすがに省略いたしますが、もし源氏物語を全く知らない人が読んでも、恋愛小説としてこんなによく出来た作品はありません。
そして、寂聴訳の素晴らしいところは、全体の構成を改変せず、素直に丁寧に訳してある所。
人気の高い田辺聖子の「新源氏物語」やよくある漫画版のように余計な色付けや独自の解釈を入れず、紫式部の「源氏物語」を一番忠実に再現している名著です。
ですので、古典文学の傑作に親しみたいという方も、そして、受験勉強や就職試験の対策で一度きちんと読んでおきたい人にもお勧めできる一冊です。

28|ヤフーもラピュタもここにあったんだ「ガリバー旅行記」ジョナサン・スイフト(角川文庫)

タイトルだけは誰もが聞いたことがあるのに、読んだことのある人の少なさでは他の追随を許さない名作「ガリバー旅行記」
なぜか日本では、童話として小人の国に流れ着いた場面ばかりがよく引用される、あのお話です。
しかしながら、そんなお話の元となっている本作は、決して子供向けの童話ではありません。むしろ、子供向けの冒険小説だと思って読むとやけどします。
この作品は、著者であるガリバー・スイフトという、文学史上でも類を見ないほど皮肉と批判を好む作者によって記された、全編余すことろなく社会風刺と人間批判に満ちた物語です。
そして、その大胆なまでのひねくれた視点がたまらなく面白い作品なのです。
そんなひねくれた風刺小説であるこの作品が、いかに世界で愛されているかは言うまでもありません。
ヤフーやラピュタといったどこかで聞いたことのある言葉の元がこの作品と言えば、その人気は言うまでもないことでしょう。

29|”Yes, I just shot John Lennon” 「ライ麦畑で捕まえて」J・D・サリンジャー(白水Uブックス)

表題の英語は、ジョンレノン暗殺事件を起こした、マークチャップマンがその直後取り押さえた警備員に話した言葉。
そして、その時彼の手に握られていたのがこの「ライ麦畑で捕まえて」です。
この事件があまりにセンセーショナルであったことから、また、犯人チャップマンが自分とこの作品の主人公、そしてジョンレノンを同一人物だと思っていたことなどで、この作品は有名になりました。
しかし、作品自体は、そんなこととは全く関係のない、素晴らしい作品です。
理不尽でむなしい大人社会に、少年が疑問を感じながらも染まってゆく過程をあらわしたこの小説は、ひとつの青春小説として、間違いなく名作というべきものです。
ところが、上の事実を知って読めば全く違う面が見える気がする。
社会的事件によって味わいの増えた、珍しい作品です。

30|そして最後にぬくもりが残った「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス(ハヤカワ文庫NV)

人間の価値とは何か、そして、幸せとは何なのか。
そんな永久に答えの出ない自問自答を、数々の小説は繰り返してきました。
そして、そんな、小説というものにとって永遠のテーマであるそれを、最も端的に、そして切なく、感動的に表した作品が本作ではないかと思います。
内容については、読んでください。としか言いません。
しかし、決して読んで損のない本であることは、ここで自信をもって断言いたします。
物語の序盤、主人公チャーリィの目を通して語られる世界は、どこまでも透き通っていて純粋そのもの。
そんな彼の目を通した世界がどう変わっていき、そして最後にはどうなってしまうのか、それは皆さんがそれぞれ確認してみてください。間違いなく、必読の書です。

31|生きていくことの美しさと哀しさ「コルシア書店の仲間たち」須賀敦子(文芸春秋)

舞台は1960年代のイタリアミラノ。サン・カルロ教会の物置を改造した小さな書店「コルシア・デイ・セルヴィ」に集まる人々を描いた一冊です。
実は本書は、小説ではなく著者の書下ろしのエッセイ集です。
まるで映画のワンシーンのようなエッセイは、60年代という時代を切り取っているにも関わらず、静かに物語は進みます。
書店で繰り広げられる文学談義、理想の共同体を夢みる三十代の友人たち、華やかな社交界、ユダヤ系一家の物語、友達の恋。
著者の人生の伴侶となるペッピーノとの出会い、そして死別。コルシア書店とそこに集う人々と出会いと別れが、静謐に描かれています。
追憶の中で、淡々と描かれる1960年代のイタリアミラノの風景は、一編の小説よりのように心に響いてきます。人は、年齢を重ねる中で人生のどんな瞬間も、永遠に続くわけではないと心底痛感することがあるはずです。
最後に本書の一文を紹介します。「私のミラノは、たしかに狭かったけれども、そのなかのどの道も、だれか友人の思い出に、なにかの出来事の記憶に、しっかりと結びついている。
通りの名を聞いただけで、だれかの笑い声を思い出したり、だれかの泣きそうな顔が目に浮かんだりする。
今この瞬間のなにげない風景や会話も、あなたが生きた証として誰かの記憶に確実に刻まれているはずです。

32|端正な日本語で表現された幻想世界「夜叉ヶ池・天守物語」泉鏡花(岩波文庫)

1913年(大正2年) に発表されたもの。両作品とも、人間とそれ以外のもの(妖怪)が登場する幻想的な物語です。
本書を読み進める際は、論理や整合性は、いったん頭の片隅においておき夢か現かわからない世界に没入することをおすすめします。
「夜叉ヶ池」は、福井県に実在する夜叉ヶ池の龍神伝説を題材にした作品。
白鷺城(姫路城)の最上階に、異形の者たちが住むという伝説をもとに描かれたのが「天守物語」。
天上に暮らす姫のたった一度の恋、異界に住むものとこの世の人間との恋物語です。
両作品とも鏡花がつむぎだす美しい日本語によって、幻想と現実の世界が神秘的に描かれていきます。
1世紀たった現在も、歌舞伎や映画オペラ化され、世代を超えファンが増える両作品。
鏡花の描く登場人物たちは、義理人情に厚く粋でいなせ、現代ではお目にかかれない「きりしゃん」とした日本人の姿がそこにあります。生き様やその美学も含めて日本人として一度は読んでおきたい作品です。

33|声に出して読みたい「寺山修司少女詩集」寺山修司(角川文庫)

短歌、俳句、詩、演劇と多彩なシーンで活躍し、1983年に47歳の若さで亡くなった寺山修司。
マルチな才能は、舞台「身毒丸」(藤原竜也主演)のロンドン公演や小説「あゝ、荒野」の映像化(菅田将暉主演)など、世代を超えファンを増やしています。
本書は、寺山作品の中でも比較的読みやすいオリジナル詩集です。
瑞々しい感性で切りとられた作品群は、成人男性が描いたとは思えないほど、少女の多感な時期を映し出します。
誤植かと思うような言葉遊びがふんだんに盛り込まれ、日本語の面白さを再発見できるはずです。
一見読みやすい本書ですが、実は、言葉には毒が含まれていたり皮肉やミステリー小説の様などんでん返しもおこります。
「詩集なんて今どき誰がよむの?」そんな風に感じている方にこそ手にとって欲しいエンターテイメントに満ちた1冊です。

34|言葉の持つ力を信じる「本日は、お日柄もよく」浜田マハ(徳間文庫)

主人公は、幼なじみに実らない片思いをする27歳OL。恋愛小説かと思いきや、がっつり泣けるお仕事小説です。
「人並みな幸せが、この先自分に訪れることがあるのだろうか」と人生を低空飛行する主人公が、あるスピーチをきっかけに人として成長していく物語。
ストーリー展開は好みがわかれるところですが、まっすぐな登場人物たちの姿には誰もが好感を抱くのではないでしょうか。
ちなみに、随所に記載されるプレゼンスピーチに関するノウハウは、実用書レベルで役に立ちます。
言葉ひとつで周りを巻き込みながら仕事等を進めていきたい方はぜひ読んで欲しい物語です。
読み終わった後には、まっすぐに気持ちを伝えることに勇気が湧いてくるはずです。

35|いつかの誰かの物語「さくら」西加奈子(小学館文庫)

西加奈子による老犬サクラとその家族のお話。全編関西弁で繰り広げられるため、リズムよく爽快感があります。
うららかな春のようなホームドラマかと思いながら読み進めると、ある出来事をきっかけに歯車が狂いだし、胸をえぐるような現実が一家に覆いかぶさっていきます。
家族一人一人が苦しみ、飼い犬サクラを軸に鮮やかに再生する姿は、「家族愛」の一言で表現するには軽すぎるかもしれません。
まっすぐで不器用な登場人物の姿は、優しくあたたかい気持ちと人生への愛おしさを思い出させてくれるはずです。
2020年初夏に映画が公開される本作品、小説と映像と両作品を見比べてみてはいかがでしょうか。

36|女の生き様「にごりえ・たけくらべ」樋口一葉(新潮文庫)

明治文壇を彩る天才女流作家、樋口一葉の短編小説集です。
文語体言い回しに読み慣れるには多少時間がかかるかもしれませんが、美しい日本語のリズムを楽しめるはずです。(どうしても読みにくい場合は、音読をすると意外にスムーズに読みこなせます。)
社会の底辺で、自暴自棄の日を送る女を描いた「にごりえ」、遊女を姉に持つ14歳の美登利と、僧侶になる信如との思春期の淡い初恋を描いた「たけくらべ」など、人生への哀歓と美しさを織り込んだ全8編がもりこまれた本書。
当時の倫理観や女性への扱い、男性の立ち位置には、現代を生きる私たちには違和感を感じる箇所もあるかもしれません。
今では想像できない不自由さの中で、明治という時代を生き抜いた女性の悲哀がリアリティをもって描かれています。
現在は読みやすい新書体版もありますが、ぜひ文語体版を手にとり日本語の美しさを再認識してほしい1冊です。

37|事実は小説より奇なり「マチネの終わりに」平野啓一郎

結婚した相手は人生最愛の人であると言い切れる大人は、もしかしたら少ないのかもしれません。
「ただ愛する人と一緒にいる」たったそれだけのことができない。そんな恋の仕方を忘れた大人に贈る骨太な恋愛小説です。
単なる恋愛小説と思いきや、膨大な知識(音楽・文学・映画・アート)や世相(紛争・イラク戦争・欧州難民・テロ・リーマンショック・震災などの世界が直面する諸問題)に絡めながら、多重構造で展開する物語。
これだけの要素を盛り込み、伏線をはりながら物語の中に綺麗に収めきる著者の力量に圧倒されます。
2019年秋には、福山雅治氏、石田ゆり子氏主演で映画公開される本作品。
「恋愛小説なんて、暇つぶしでも読まないよ」という方にこそ手にとって欲しい一冊です。

38|はかない幻想の世界「近代能楽集」三島由紀夫(新潮文庫)

一つの単語を計算し尽くして描く三島作品は、使用される語彙の複雑さゆえ読まず嫌いなんて方もいるかもしれませんね。
三島作品ははじめてという方には、入り口として1950年に発表された「近代能楽集」は、能謡曲を現代的に翻案した短編戯曲集はいかがでしょうか。
三島由紀夫の紡ぎだす流麗で無駄のない彫刻のような言葉は、ときに難解に感じるかもしれません。
本書には邯鄲(かんたん)、綾の鼓(あやのつづみ)、卒塔婆小町(そとばこまち)、葵上(あおいのうえ)、班女(はんじょ)、道成寺(どうじょうじ)、熊野(ゆや)、弱法師(よろぼし)全8曲が収録されています。
全編を読むのはハードルが高い場合は、まずは葵上と卒塔婆小町から読み進めることをおすすめします。
葵上は、源氏物語の葵の巻をもとにした世阿弥の能です。時代は異なるものの、言ってしまえば不倫のお話です。
愛情が嫉妬にかわり多かれ少なかれコントロールできなくなってしまう・・・そんな経験を持つ大人は多いはず。
葵上は、かつての不倫相手である恋人を忘れることができず、生霊になる女の悲しく恐ろしい話です。
卒塔婆小町は観阿弥による能楽卒都婆小町が原作です。絶世の美女として名高い小野小町の晩年を描いた話です。
時代は異なるものの根底にあるのは、「美と醜、恋と愛、若さと老い」など人間にとって不変的なテーマです。
美しく妖しくはかない幻想の世界を、三島 由紀夫の計算し尽くされた日本語ともにお楽しみください。

39|魔術師のように変化する作風「伊豆の踊り子」「古都」「片腕」川端康成(新潮文庫)

大正、昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学の頂点に立つ川端康成。
作品ごとに、次々と手法や作風を変遷させ、伝統美、幽玄、妖美など様々な美しさを表現していきました。
日本人として初のノーベル文学賞を受賞し、日本文学の最高峰として不動の地位を築いた彼の作品群は人生で一度は読破したいものです。
彼の作品を初めて読む方には、「伊豆の踊り子」「古都」をはじめとした初期の小説や自伝的作品がおすすめです。
みずみずしく繊細な情景が描かれ、海外でも評価が高い作品です。
さらに60年代に描かれた作品群は、いずれも一筋縄ではいかない幻想的な美しさが際立ちます。
おすすめしたいのは、「片腕」「眠れる美女」。
シュール・レアリスム、エロティシズム、デカダンスなどの要素を多分に含む前衛的な内容は、好き嫌いがはっきりわかれるかもしれません。
彼が表現する美しさはどれが最も自分好みかは読んでみて判断してみてくださいね。

40|弱くて強い愛しい人たち「思い出トランプ」向田邦子(新潮文庫)

「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」などテレビの全盛期に、数多くの名作を生み出した脚本家向田邦子。
1981年51歳の若さでこの世を去った彼女の作品群は、人がひとつやふたつは持っている弱さ狡さ、そしてそんなどうしようもない人間への愛しさが描かれます。
本書には、直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」をはじめ計13編の短編が収録されています。
年齢を重ね、人生には白や黒では説明がつけられないグレーの領域が多く存在する、そんな風に感じ始めた大人たちに手にとって欲しい1冊です。
1編20ページ前後の短い文章には、女や男たちの心の機微が描かれます。
何気ない日常に潜む抗えない感情の渦が、鮮やかに映し出されます。しなやかに生きるその姿は、人間への愛おしさをあらためて思い出させてくれます。

41|子供時代に戻る「風の又三郎」宮沢賢治(新潮文庫)

ある風の強い日、不思議な少年(又三郎)が転校してきたところから物語ははじまります。
1934年に発表された本作品は、子供の心の風景を描いたものです。風の又三郎の正体も明かさることなく謎のまま物語は終わります。
宮沢賢治の作品群は、独自の言い回しや音のリズムが癖になります。
本作品冒頭も、「どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどど どどうど どどうど どどう」とはじまり思わず声にだして読みたくなりますよね。
現実世界と土着的信仰との間で揺れうごく子供の世界を鮮やかに描いた本作品で、子供時代にタイムスリップしてみてはいかがでしょうか。

42|人智を超えるものづくりの真髄「五重塔」幸田露伴(岩波文庫)

発表は1世紀以上前、明治25年(1892年)の小説です。
文語体のため読み慣れるまでは少し時間がかかるかもしれません。技量(能力)はありながらも愚直すぎる性格ゆえに、「のっそり」とあだ名がつけらた大工の十兵衛が、谷中五重塔建立に一身を捧げる姿を描いた本作品。
言葉少ない表現にも関わらず、人物、場面描写が鮮明に描き出されます。
五重塔建立という一大プロジェクトに愚直に向き合う十兵衛の姿は、多くの仕事人の心を打つはずです。
建築家安藤忠雄氏の仕事観にも大きく影響をした本作品は、自身の仕事にプライド持つ人すべてに手にとって欲しい1冊です。

43|関係のない3人が数字でつながる「博士の愛した数式」小川洋子(新潮文庫)

80分しか記憶がもたない天才数学博士、家政婦、(家政婦の)10歳の息子との物語です。
博士の家の中で展開される物語は、どこか絵本の世界をのぞきこむような不思議な感覚になります。
失ったものを数えるのではなく、瞬間を大切に一緒に時間を重ねる3人の姿は、ファンタジーのように優しく私たちを包み込みます。
博士が伝える数字の世界は、我々が見知った数学の世界とは少し異なります。
本来関係を持たない3つの式がつながった「オイラーの等式」、どんな数字でも嫌がらずに包み込む強い記号「ルート」、 1とその数字以外に約数がない「素数」、誰もその観念を持つことができなかった「0」。
数字嫌いの人でも物語を読み進めるうちに、数字は本来とても美しいのではないかとその世界に引き込まれていきます。
記憶力を失った老数学者と母子が、数字を言葉の代わりにして関係を紡いでいく姿は、誰かをいたわり愛情をそそぐことの尊さ、すばらしさを静かまっすぐ伝えてくれるはずです。

44|生涯手元におきたい本「蜘蛛の糸」芥川龍之介(新潮社他)

言わずと知れた芥川龍之介の名作「蜘蛛の糸」は、地獄に落ちた泥棒(カンダタ)が、生前蜘蛛を助けたことがあったことから、釈迦がこの男に手を差し伸べるという物語。
子供時代本作品を教科書や絵本を手にとった方は、ストーリーよりも挿絵の印象がつよく記憶に残っている方もいるかもしれませんね。
「蜘蛛の糸」は、「因果の小車」(作家宗教学者ポール・ケラス作)を題材に、日本で変容した仏教もとに執筆されています。
蜘蛛の糸で描かれる因果物語は、「わが主とペトロ聖者(スウェーデン)」、「地獄の人参(日本山形県、福島県、愛媛県伝わる民話)」、「ジャックと豆の木」など世界中にあります。
さて、カンダタが最後にどうなるのかあらためて本書で確認くださいね。

45|大人のための寓話「TUGUMI」吉本ばなな(中公文庫)

批評家・詩人の吉本隆明を父に持つ吉本ばなな。
1989年山本周五郎賞を受賞し平成時代初のミリオンセラーを記録した本作品は、海外でも高い評価を得ています。
教科書やセンター試験の現代文でも使用されたこともあり、目にした人も多いのではないでしょうか。
本書は、美少女つぐみと少年が、海辺の故郷で過した夏の日々をつづる青春小説です。
うっすらと死の気配がありながらも、透明度高く少女たちの輝かしい季節を描き出します。
少女から大人へと移りゆく、二度とかえらない瞬間をきりとった本作品は、大人たちの心をつよく締め付けるはずです。
遠い昔にどこかに置き忘れてしまった何か、かつての風景を心に呼び戻してくれる大人のための寓話のような1冊です。

46|大人にしか理解はできない「桃」「一九三四年冬―乱歩」久世光彦(中公文庫)

「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などのテレビドラマを演出し、一時代を築いた伝説の演出家久世光彦。
後年は、小説やエッセイも多数執筆し高い評価を得ました。耽美で繊細な作風は、決して子供には手が届かない大人の魅力が詰まっています。
「桃」は、桃という果実をモチーフに8つの短編が収録されています。
丁寧な描写によって、一枚の絵画を味わうような臨場感が味わえます。
大人にしか理解できない、耽美的な美しい世界観に浸れるはずです。
小説家久世光彦の代表作ともいえる「一九三四年冬―乱歩」は、執筆に行き詰った江戸川乱歩が主人公の作品です。
乱歩が、ホテルに閉じこもり小説執筆を進める中で起きる怪奇事件が描かれます。
本のタイトルでもある1934年は、実際に乱歩が数カ月間行方をくらました空白期間をさします。
丁寧な取材と事実を元に、久世光彦の圧倒的な想像力で展開する幻想的なストーリーは乱歩ファンも納得の1冊です。

47|読むたびに解釈が変わってしまう「夢十夜」夏目漱石(新潮社他)

日本文学史に輝く数々の傑作を残した夏目漱石。
「こんな夢を見た」ではじまる10の不思議な夢の世界を綴る本作品は、漱石には珍しい幻想文学のテイストが濃い作品です。
漱石の他作品にくらべ、難解なテーマを扱う「夢十夜」は漱石ファンの中でも好みが分かれるかもしれません。
ごく短い10個の夢のお話は、物語というより長い詩を読んでいるような感覚になります。
夢を見ているときの「話の辻褄は全然合わないのに、妙に現実感がある」あの感覚を追体験できる作品です。
ちなみに、わたしのおすすめは第ー夜。
漱石自身の自己の深みにある罪悪感や不安を表現したともいわれる夢十夜、内容は、ぜひ本書で確認してくださいね。

48|弱くなければ、強くはなれない「伴走者」浅生鴨(講談社)

作家、広告プランナーである浅生鴨氏が描くスポーツ小説。
タイトルにある伴走者とは、視覚障害のある選手の目の代わりになり一緒に競技に取り組む人のこと。
浅生氏は、NHK広報局ツイッター「@NHK_PR」中の人1号として話題になった人物でもあります。
開設当時(2009年)公式アカウントらしからぬユルいツイートで人気を呼び、記憶に残っている方もいるかもしれませんね。
そんな彼が描く本作品は、マラソンとスキーでの伴走者と選手との関係を描きます。
スポーツ小説として一気に読め感動できる小説です。しかし「ランナーと伴走者の姿に泣けた!」だけで終わらせては少しもったいない。
ここで注目して欲しいのは、人と人の関係。
他者とどのように関わればいいのか、人が人に手を差し伸べるとは、信頼とは何なのか。
生きる上で、他者と深く関係を築くための本質が詰まっています。
弱さがなければ人は強くなれない、選手と伴走者の姿は、話の中の特別な関係ではなく、自分ととなりの誰かの関係だと思えるはずです。

49|時間をかけて読んでみる「モモ」ミヒャエル・エンデ(岩波少年文庫)

ドイツの作家ミヒャエル・エンデによる児童文学「モモ」は、1973年の発行以来日本国内で根強い人気を誇る作品です。
時間が盗まれ人々の心から余裕が消える中、不思議な力を持つ少女モモが、冒険のなかで盗まれた時間を取り戻すというストーリー。
大人が読んでも、物語の展開にワクワクできるはずです。
また本作品は、子ども向けですが大人たちが読めば効率を追及する現代人への批判であると気がつきます。
効率至上主義を全否定することには賛否両論あるかと思います。
しかし、「モモ」を通じて効率性だけを重視するだけでなく、時には流れに任せてみてもいいと思えたら人生はより豊かになるはず。
6年の歳月をかけて作り上げた本作品、じっくりと味わいながら読んでみてはいかがでしょうか。

50|大切なものは、目に見えない「星の王子さま」サン=テグジュペリ(岩波書店他)

1943年に出版されたフランス人飛行士小説家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの代表作。
200以上の国で翻訳され、総販売部数は1億5千万冊を超える(2015年地点)超ロングベストセラー小説です。
児童文学作品ですが、「大切なものは、目に見えない(Le plus important est invisible)」をはじめ本作のメッセージは子供の心を失ってしまった大人に向けたものが多く、命や愛といった人生の重要な問題に向き合う際に指針となる内容となります。
大人になり常識や目の前のやるべきことにがんじがらめになり、物事の本質が見えにくくなっていたら、あらためて「星の王子さま」を読み直してみてはいかがでしょうか。
複雑に見えた問題も、案外シンプルかもしれませんよ。

積み上げた本の数だけ

いかがでしたか、「死ぬまでに絶対に読むべき!おすすめの小説50選」 皆様の心の琴線に触れた作品はありましたでしょうか?
最初に書いたように、小説は決して「為に読むもの」でも「勉強」するものでもありません。
しかし、こうしてたくさんの本を読めば、読んだ本の数だけ、新しい世界があなたを待ち受けています。
そして、新しい何かが見えてきます。
積み上げた本の数だけ、あなたの世界は広くなってゆく。
笑いながらワクワクしながら、そして時には泣きながら、新しい世界にどうぞ踏み出してみてください。
ページの向こうに広がる新世界が、あなたを待っています。

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