電車の通勤時間で読める!短編小説を集めたオススメの文庫本15選

短い時間にサクッと読める短編小説。
特に通勤通学時間に読める文庫本だとかなり暇つぶしの強い味方になることは間違いありません。
そこで今回は、短い時間でもサクッと読めてしっかり満足できるオススメの短編小説をご紹介します。
あまり小説になれていない人でもしっかりと楽しめるのが、短編小説の良いところですので、小説ちょっと苦手だな、という人も試してみてくださいね。

1|悪魔のいる天国(著者:星新一/新潮文庫)


むしろこの本というよりも星新一さんの作品のすべてが、オススメの短編小説集。
そしてやはり、オススメの短編小説を紹介するという点において、その先頭に持ってくるのは星新一さん以外ありえない、そう確信できるそんな短編小説界の巨星です。
ここで紹介するのは、そんな作品群の中から悪魔のいる天国。
一般的に、星新一作品を紹介するときは「ボッコちゃん」がほとんどで、なかなか名前を聞かない作品ですよね。
もちろん他の短編集に比べてこの本が一番優れているということではなく、こういう一般によく知られていないタイトルの物でも、それが珠玉の名作に他ならない、ということなんですね。
ある意味日本の歴史を変えた小説家の作品、とにかくおすすめです。

2|日本語必笑講座(著者:清水義範/講談社)


星新一さんがショートショートの巨星なら、パスティッシュ小説の巨匠はこの清水義範さん。
日本に物まね文学というジャンルを持ち込んだ稀代の小説家で、とにかく腹を抱えて笑える小説を書かせたらこの人の右に出るものはいません。
そういう意味では、暇つぶしにはなっても電車の中では読みづらいかも。
今回ご紹介するのは、そんな清水義範さんの得意な分野である日本語を楽しむ作品。
言葉というものに並々ならなぬ興味と関心、そして知識を持つ清水義範だからこそ書くことのできる、思わず薬ときて、ときに腹を抱えて笑いたくなる作品です。
作家の頭の中にある、言葉に対する思いの深さは、一読の価値があります。

3|快楽の動詞(著者:山田詠美/文芸春秋)


90年代に一世を風靡した女流作家山田詠美さん。
その独特の視点と切り口で、快楽というものに迫った短編をおさめてあるのがこの作品です。
一般にエログロというののはほかの題材よりも低く見られがちな日本の文学界で、そんな人間の根本の営みに対して、紳士で真面目に、そしてどこかニヒルな笑いを持って迫っていく山田詠美さんの視点。
その見つめている先には、男女の営みに対する愛着のような思いを感じます。
日本人は絶頂時「いく」のになぜ欧米人は「来る(カミング)」のか。
そんなことに対して、しっかりと考えるという少しドキドキする思考体験を味わえる作品です。

4|緋い記憶(著者:高橋克彦/文芸春秋)


記憶というものに主眼を置いた短編が読める、著者の代表作。
直木賞を受賞したその経歴に恥じない、心の奥底に不快な爪痕をしっかりと刻み付けてくれる、ある意味ゴシックホラーにも通じるような作品です。
とにかく、ここまで癖になる不快感というものを他の差君品で感じたことはありません。
どの作品も、短編集とは思えない読みごたえで、それぞれが長編であるような満足感を感じさせてくれる背筋も凍るようなミステリー。
人間の恐怖の深淵の一つをのぞいたような、庭先の古い井戸をうっかりのぞき込んでしまったような、そんな気分に浸れる作品集です。

5|くるぐる使い(著者:大槻ケンヂ/KADOKAWA)


ロックバンド筋肉少女帯のボーカルにして、作家でもある大槻ケンヂさん。
そんな大槻ケンヂさんが第25回星雲賞を受賞した、名実ともに小説家としてその名を文学界にとどろかせた記念碑的作品が本作。
現在と過去、現実と幻想、そして正気と狂気の境目にあるあやふやな感覚。
全体的にユーモアにあふれ、どこか詩的で、そして客観的な視野で物をとらえているにも関わらず、ずんずんと迫ってくる柔らかい狂喜の気配を背中に感じるそんな作品。
そして、オーケン作品特有の、ハッピーなんだかわからなくなるやるせない終わり方。
全て読み終えて、その独特の読後感に「なんだかなぁ」とつぶやけば、大槻ケンヂの投げかけた狂喜の正体があなたのすぐ後ろに迫っているかもしれませんよ。

6|D坂の殺人事件(著者:江戸川乱歩/東京創元社)


今冷静に読むと、トリック自体は「そんなもの?」と思えてしまう江戸川乱歩作品。
しかし、推理小説というものが日本にほとんど存在しなかった時代に、ここまでの完成度で小説を書きあげるその手腕はさすがは乱歩と言わざるを得ない、そんな作品。
しかし、何より、その注目点は文体と描写が生み出す、どこか淫靡で、怪しい雰囲気。
その雰囲気を豹変するのは非常に難しいのですが「高貴ないやらしさ」ですとか「上質の下品」とでもいうような何とも言えない「乱歩の世界」という言葉でしか表せない世界観。
様々なジャンルの小説に天才はいますが、ジャンルを超えて天才と呼べる数少ない人間である乱歩。
その、世界、はまると抜け出せませんよ。

7|巷説百物語(著者:京極夏彦/KADOKAWA)


京極夏彦さんの人気シリーズである、百物語。
これまた人気キャラである小股潜りの又市が登場する、連作短編時代小説が本作になります。
ちょっと電車で持ち歩くには厚めの文庫本ではありますが、それでも、毎日の通勤通学で少しづつ読み進めるには本当に最適な分量と内容です。
そして、何より、面白い。
ストーリー展開とキャラクターの使い方、そして描写と、セリフひとつひとつの言い回しの妙など、何を取っても隙のない作りはさすがに京極夏彦さんだなと感じさせてくれます。
しかもこのシリーズの良いところは、続編が結構あるところ。
ひとつ読み終わっても次があるというのは、普段読みの短編小説としてはかなりうれしいですよね。

8|陰陽師(著者:夢枕獏/文芸春秋)


日本に一大「安倍晴明ブーム」を巻き起こした話題作。
その後映画化され、その主題歌が羽生弓弦選手のスケート曲に使われたことで、この作品の持つ影響力はオリンピックにも派生したかと思うと、感慨深いものがあります。
当然、そこまでのムーブメント起こした本作が面白いのは、言うまでもありません。
まさにジャパニーズファンタジーともいうべき、平安の世を舞台とした呪術と陰陽道、人間と妖怪の織り成す様々な不思議譚。
魔法や魔術といえば、なんとなく西洋のものだと思い込んでいた日本人に、まさに不思議の世界は日本にこそあったと思い出させてくれる。
日本の不思議を再発見できる作品です。

9|心とろかすような マサの事件簿(著者:宮部みゆき/東京創元社)


長編小説パーフェクトブルーで登場した探偵事務所の愛犬マサの物語。
本作は、現代における日本有数のストーリーテラーである宮部みゆきさんが、その創作の初期に当たる時代に書いた犬目線の推理小説という変わった作品です。
とにかく、徹頭徹尾犬目線というこの変わった作品は、どこかほのぼのと、そしてほっこりとする作品。
マサの繰り広げる日常のコミカルさが、どことなく優しい雰囲気であるものの、その直面する事件にはしっかりとした社会派のメッセージが込められているあたり、まさに宮部文学といった趣。
他の作品のような派手な事件性はないものの、事件を通して人間をあ描く宮部みゆきさんの作品そのものの体現といった感じで、ぜひ読んでおきたい一作です。

10|村上龍料理小説集(著者:村上龍/講談社)


深夜の目してる、なんて言葉がありますが、文庫の飯テロともいえるのが、この作品。
間違いなく日本を代表する作家のひとりである村上龍さんが、その卓越した文章力で、真っ向から食というものに取り組んでいるというだけで、かなり興味深い作品。
短編一作一作のクオリティーは言うまでもなく、その描写にいたってはまさに飯テロ。
快楽に直結するかのような、肉感的で人間の原初の本能に訴えかけてくるかのような料理の描写は腹の虫たちの阿鼻叫喚が聞こえてきそうな、そんなクオリティ。
食というものに、稀代の作家が取り組むとここまでおなかのすく作品ができ上る。
そんな、奇跡のコラボレーションが味わえる作品です。

11|思い出トランプ(著者:向田邦子/新潮文庫)


昭和の日本のドラマ界の屋台骨を支え続けてきた作家、向田邦子さん。
日常を何気なく切り取っていき、その何でもない日常の中にじわっと染み出すような人間の情念や欲望、感情をあぶりだすことにかけて天下一品の向田邦子さん。
そんな彼女の真骨頂を存分に味わえる短編集、それが本作。
中の一編として収録されている、直木賞樹受賞作「カワウソ」などは、そんな日常の中あるゾクリとした感情の生々しさをなぜるように感じることができる珠玉の名作。
まさに人間を見つめ人間を描き続けた向田邦子さんの、人間に対する熱い思いを感じることができる作品です。

12|天保悪党伝(著者:藤沢周平/新潮文庫)


世話講談「天保六歌撰」のキャラクターを藤沢文学の世界で生き生きと描いた、痛快時代小説。
江戸時代の影の部分に暗躍した、6人の悪党たちの、生き生きとした人間模様と恋模様を描いた、藤沢周平さんの時代小説を存分に味わえる短編集です。
とにかくこの小説に関しては、やはりキャラクターの魅力につきます。
確かに悪党は悪党なのですが、人間味が強くどことなく憎めないキャラクターたちのくりひろげる様々な事どもは、爽快で痛快で、そしてなんとなく物悲しくもある。
物語の中に、どうしようもなく存在する宿命や運命を何とか切り開こうとする彼らの姿は、まさに人間が生きていく姿そのものなのです。

13|昼下がりの恋人達(著者:赤川次郎/徳間文庫)


日本で最もお金を稼いだ小説家である赤川次郎さん。
実際に意識していなくても原作のドラマや小説、もしくはそれをモチーフにした何らかのものに、日本人であれば触れているだろうと思われるほどの大ベストセラー作家です。
そんな押しも押されもせぬ、日本一のベストセラー作家の短編集の一つが、本作。
しかも、この小説を「三毛猫ホームズ」や「三姉妹探偵」と思って読むと大けがをする、そんな作品集。
少しホラーに近いような、心の影の部分を揺さぶるようなその作品たちは、まさに赤川次郎さんの卓越した物語づくりの才能を感じさせます。
ただ、読みやすい推理小説を書く作家ではない、真の姿が、ここにはあるのです。

14|きみはポラリス(著者:三浦しをん/新潮文庫)


短編小説で味わう、ごくごく短い時間の恋愛体験。
そんな、ぜいたくで、極上の時間を味わいたいのであればぜひとも進めたいのが、この三浦しをんさんの「きみはポラリス」です。
まさに本作は、三浦しをんさんの最高の恋愛小説といってもいいでしょう。
ただよくある恋愛模様ではなく、独特な世界観の中での一風変わった愛の形を、それでも誰しもが共感できるものとしてろ過し抽出するその作風は、さすがです。
恋愛の様々な形を味わいたい人はぜひ読んでみてください。
愛の形の多彩さに、心がときめくこと間違いなしです。

15|金曜のバカ(著者:越谷オサム/KADOKAWA)


まさにバカの見本市。
次々に現れるバカたちのバカな話を、痛快に爽快に、そしてワクワクとした明るい気持ちで一気に読ませてくれる、夏の日のサイダーのような作品。
とにかく出てくるキャラクターが本当にバカ。
ただ、にやにやとほほ笑みながら「ばっかだなぁ」と思えるバカや、少しほろっと着ながらも「まったくバカなんだから」と思えるようなバカなど、愛すべきバカしか出てきません。
まさにこれはバカという魅力の再発見に通じる作品。
かしこく、無難な日常を送らざるを得ない私たちに、バカという魅力と価値を再認識させてくれる、そしてちょっとバカに憧れてしまいそうになる、そんな不思議な短編集です。

心のシャワーとして

心の疲れをゆっくりと解きほぐしてくれるそんなお風呂のようなものが長編小説なら、短編はシャワー。
短い時間に、強い勢いの感動や興奮、様々に考えさせられる事柄を一気にその心に浴びて、日々の疲れや心にたまったわだかまりや、織のような憂鬱を洗い流す。
そしてまた、新しく一日を歩んでいく。
短編小説には、そんな力があります。
揺れる電車の中で、今日一日の活力を湧き立たせる短編小説を、ぜひ読んでみてくださいね。

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