西加奈子|おすすめの小説本ランキング【作家名から作品を探す】

2歳までイラン・テヘランで過ごし、小学生時代はエジプト・カイロ、その後は大阪で過ごした西加奈子。2004年に 「あおい」でデビューし、2005年の 「さくら」で一気にベストセラー作家の仲間入りを果たします。その後も、織田作之助賞、河合隼雄物語賞、直木賞を次々に受賞し、映画化作品も誕生している西加奈子。彼女はトントン拍子で今の地位を築いたように思われがちですが、デビューまではライターをはじめ複数の仕事を掛け持ちし、上京資金をため、出版社へ営業、原稿持ちこみをしていたというなかなかの苦労人です。根っからの大阪人気質でおおらかな彼女のキャラクターは、男女問はず幅広い層のファンを獲得しています。そんな西加奈子作品をご紹介していきます。

1|きいろいゾウ(小学館文庫)

西加奈子がアルバイトをしながら執筆活動をしていた時期に描かれた本作品。2013年には向井理、宮崎あおい主演で映画も公開され目にした方も多いかもしれません。物語の主人公は、都会から九州の田舎に引っ越してきた夫婦。売れない小説家の夫、感受性の強い妻の穏やかな日々は、ある日夫へ届いた1通の手紙をきっかけに大きな波紋が広がります。夫の背中にある鳥の刺青の意味とともに真相があきらかになっていきます。知らない過去と相手への信頼の間で揺れ動きながらも、まっすぐに相手に向き合いつづけるふたりの姿は、胸に迫るものがあります。ユニークなキャラクターたちによってどこかファンタジーのような作品です。誰かを愛おしく大切に思う純粋なラブストーリーをぜひ一度手にとってみてください。

2|サラバ!(小学館文庫)

第152回直木賞を受賞した「サラバ!」は、作家生活10年目の節目に書かれた作品です。主人公は、イランで生まれた男の子圷歩(あくつあゆむ)。海外で活躍する父、可愛らしい母、少し変わった姉、そして主人公の歩。そんな一家を主人公の誕生から37歳までを追いかけていく物語です。主人公歩は、幼少期にアラビア語でさようならを意味するマッサラーマをふざけてマッサラーバ!と言い始めてから、親友との別れ際には必ず「サラバ!」と言い合うことなります。幼少期に激変してしまう家族の形、信じるものを失いしだいにバラバラになっていく家族、自分の人生をどこか傍観者のように過ごす歩。しだいに明かされる家族それぞれが抱える過去と孤独。出会いと別れを繰り返しながら最後に歩が掴むものは何か。えエジプト、日本を舞台に(上)(中)(下) と圧倒的なパワーで、読むものたちの心を揺さぶります。今、人生に迷いがある人にはぜひおすすめの作品です。

3|漁港の肉子ちゃん(幻冬舎文庫)

生きていく上で、たったひとりでもいいから自分の存在を肯定し受け止めてくれる人がいるだけで人は強くなれます。主人公は、北の港町にたどり着いた女とその娘。母は、男に騙され続ける女。彼女は、ぱんぱんに太りとてつもなく不細工、しかし底抜けに明るい。その見た目から「肉子ちゃん」とあだ名が付いています。娘の「キクりん」は、賢く冷静な小学5年生。思春期にさしかかり母親のことが恥ずかしく疎ましくなっていきます。肉子ちゃんとキクりんのやりとりは、まるでギャグ漫画のようにテンポよく展開していき、最後には泣かされます。完璧な大人なんてひとりもいない、みんな勝手にそれぞれ生きている、自分や大切な誰かをぎゅっと抱きしめたくなる作品です。港町に生きる母娘と、人々を活き活きと映し出す本作品はそっと勇気をくれる傑作です。

4|通天閣(ちくま文庫)

大阪ミナミを舞台に、八方塞がりの男女2人を描く本作品。主人公は、夢を失い町工場で働く中年男と、スナックで働く若い女。八方塞がり自分にまわりにも期待しない2人。猥雑で酒浸りの正体不明のオッサン連中があふれるそんな通天閣でおきたある大騒動が2人の運命を大きく動かします。誰かに必要として欲しいのに誰にも必要とされず情けなくて、死にたいほど寂しい。最後に明かされる2人の関係は本書で確かめてくださいね。代わり映えのない毎日であっても、きっと愛おしく思えるはずです。

5|あおい(小学館文庫)

西加奈子のデビュー作。タイトルのあおいをはじめとする作品が収録された短編集です。西の自由な友人たちをモデルに描かれた「サムのこと」、スナックで働くさっちゃんと同棲中の彼氏カザマ君の一癖あるラブストーリー「あおい」など。どの短編集も作品の主人公に共感できるかどうかは意見が分かれるかもしれません。純粋さと、とてつもなく不潔なものが同居しながら、全編関西弁で展開する物語。思春期を終え大人として走り始める直前の青春時代を映し出したような作品です。

6|ごはんぐるり(文春文庫)

西加奈子の小説世界が気に入ったら、ぜひエッセイも手にしてみてください。本作品は、西加奈子自身のごはんにまつわる子供時代の思い出、失敗談、笑い話がぎゅっとつまった1冊です。小学生のときにエジプトカイロで食べた卵かけごはん、大阪のおばさんが出してくるアメちゃんについて、小説で目にしたやたら長い名前の食べ物について、男子校の寮母になる夢などなど。くすくす笑いながら、西加奈子という人間がますます好きになっているはずです。

7|こうふく みどりの (小学館文庫)

「こうふく みどりの」は、大阪の街を舞台に女の「こうふく」を描いた物語。転校生コジマケンが気になる14歳の娘、夫が失踪中の祖母、妻子ある男性を愛してしまった母。その家族の元に居候する、離婚できない料理上手の藍ちゃんと4歳の娘桃。そんな大阪で暮らす女たちの「こうふく」を描いた物語。癖のある恋愛をする女たちの抱える現実は、客観的に見るとかなり重いです。しかし過去が少しずつ紐解かれるにつれ、それはそれで女としては幸福なのかもしれないと感じるはずです。最後には、単純なんだか複雑なんだかわからない、一筋縄ではいかない女たちがこの後もどうか幸せに過ごせますようにと願ってしまうかもしれません。

8|うつくしい人(幻冬舎文庫)

少し現実に息がつまってしまった大人の人生の休暇を描いた、そんな作品です。主人公百合は、自分がどうしたいかよりも他人にど見られているかばかり気にしてびくびくして生きている女性。単純なミスをきっかけに心が折れた彼女は、会社をやめ離島へ旅に出ます。離島出会った2人の少し変わった男とともになぜか図書館で写真を探すことになります。一見すると主人公百合は、かなり痛い女ですが彼女がここまでこじらせてしまったのにはそれなりの理由があります。社会人になり自分が選んだ道がこれで良かったのか、同世代が眩しく見えてしまうそんな方におすすめの1冊です。著者自身も、執筆当時悩みを抱えており書くことで自身の葛藤から少し抜けだせたとのこと。自分が執着している価値観は意味があるもの。いつかは手放して新しい価値観とともに、自分自身をあるがまま受け入れることができたら、少し生きていくのが楽しくなるかもしれません。

9|窓の魚(新潮文庫)

言ってしまえば恋愛小説。ただし恋という、コントロール不能な得体のしれない感情を、深い洞察力と冷静な筆致で描き切った作品です。主人公は、温泉宿で一夜を過ごす2組の恋人たち。彼らが宿泊した翌朝、宿には1人の死体が残されます。一見問題のない恋人たちですが、実は彼らはそれぞれ心に欠落をかかえ、埋められない孤独感を抱えています。物語は、2組の恋人たちナツとトウヤマ、ハルナとアキオそれぞれの視点で温泉宿での一夜を振り返る形で展開します。2組の恋人が温泉旅行をするといういたって単純な筋書きなのに、話が進むにつれページをめくるのが怖くなります。純文学のようなしっとりした描写は、テンポよくすすむ西の他作品にくらべ異色かもしれません。さて、殺された死体はいったい誰なのか、殺した人間がいったい誰なのか、真実はいったいなんなのか本書で確かめてください。

10|ふくわらい(角川文庫)

主人公は、女性編集者鳴木戸定(なるきど さだ)。幼少期の経験から人と壁をつくり友人もつくらず生きてきた彼女。そんな彼女の人生に、ちょっと変わった大人たちが関わり始めます。定は面倒くさい人間関係にもまれながらも、自分を包み込む愛しい世界に気がついていきます。「ふくわらい」は、まっさらな顔の輪郭の中に、ひとつひとつパーツをならべ完成させる遊び。私たちが、普段当たり前にやっている友情や恋や人付き合いを、主人公定は、ひとつひとつ立ち止まりながら丁寧に自分だけのパーツを並べ組み立てていきます。最後に彼女がどんな「ふくわらい」を完成させるのか。西加奈子の強力なパンチ力が効いたラストは、好みが分かれるかもしれません。本書で定がたどり着いた境地に圧倒されてくださいね。

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