面白い小説というのにもいろいろなジャンルがありますが、その中でも特に少ないのが笑える小説。
特に声を出して笑ってしまうような小説というのはなかなかお目にかかることはなく、泣ける小説の三分の一もないのではないかと思えるほどです。
しかし、ないわけではない。
今回は、そんな思わず声に出して笑えるような小説を20作おすすめします。
1|陽気なギャングが地球を回す(著者:伊坂幸太郎/祥伝社)
最近の作家さんで、笑える小説を書く人といえば、この伊坂幸太郎でしょう。
中でも出色の出来といっていいのが、この「陽気なギャングが地球を回す」です。
もう、この小説では読んでる間中にやにやが止まらず、時にぷっと噴き出して慌てて回りをうかがってしまうこと必至です。
またこの作品はその構成力が抜群に良い。
やはりものがたりとしての完成度が高いというのは、いくら笑える本でも必須な条件ですが、この本はそこも間違いなし。
最初から最後まで、愉快な気分にしてくれる作品です。
2|イン・ザ・プール(著者:奥田英朗/文春文庫)
長編小説というのは時にコメディーには向かないもの。
やはり笑える小説というのは小刻みに短編を読んで、一つ一つのネタを歯切れよく楽しみたいものですが、その点これは短編なので安心。
しかし、外では残念ながら安心して読めません。
きっと、おかしな人だと思われてしまいますからね。
というのも、この本がもたらしてくれる笑いは「クスクス」でも「にやにや」でもなくて「げらげら」というべき爆笑の類。
話のひとつひとつにそんな笑いが仕込まれている作品です。
3|あの子の考えることは変(著者:本谷由紀子/講談社文庫)
とにかく人間の悩みは面白ろくて下らない。
そんなくっだらない悩みを延々と話し合う二人の少女のその悩みが、とにかく爆笑の渦を読んでくる、そんな作品がこれ。
しかもそれが性に関する、いわゆる下ネタであれば、これはさすがに下らないにもほどがある。
でもだからこそ笑えてくるのが人間ですよね。
もうほとんど、独身女性の自爆テロとでも言いたくなるこの作品。
男性は読むと女性不信になるかもしれませんが、とにかく笑えます。
4|日本語の乱れ(著者:清水義範/集英社文庫)
日本語ってよくよく考えるとおかしな言葉なんじゃないか。
よく見ればおかしいけどよく見ないとおかしくない、そんな日本語の面白さを追求させたら日本一の作家清水義範。
その物語の面白さは、落語家が彼の短編小説をそのまま落語にしてしまうほどで、個人的にはこの人より笑える小説を書く人間を僕は知りません。
と、いうことでこの後も何作か紹介します。
知の巨人と見える博識の小説家が、笑えるということに特化して文章を書くとこんなにもゲラゲラ笑えてしまうのか!
そんな作品です。
5|グミ・チョコレート・パイン(著者:大槻ケンヂ/角川文庫)
青春をかき集めて形にしたら、おもしろいに決まってる。
そんな、人間にとってもっと輝かしい時代でもあり、最も恥ずかしく最も滑稽で、最もバカバカしい時代でもある青春時代を、奇才大槻ケンヂが描いた作品。
そんな本作は、あふれかえるリビドーとコンプレックスの狭間で、若くメンドクサイ男たちが右往左往しながら恥ずかしい姿をさらしていくというお話。
そう、一世を風靡した筋肉少女帯のボーカル「大槻ケンヂ」その人の自伝的小説です。
もう、ほんと、馬鹿ですよねー男って、な作品ですので、笑ってやってください。
6|青春デンデケデケデケ(著者:芦原すなお/河出文庫)
一生懸命な青春は、とにかくバカバカしくて面白い。
そんな、その時代を通り過ぎた人間には当たり前にわかっていることだったはずなのに、忘れてしまっているあの頃のおバカな自分がよみがえってくる、そんな作品。
物語は、涙あり感動ありの青春ストーリーなのに、その途中途中のエピソードがもう捧腹絶倒な爆笑に次ぐ爆笑。
そして、最後はきっと号泣します。
本の最後のページが青春時代の終わりのようで、たくさん笑ってしっかり切ない物語です。
7|快楽の動詞(著者:山田詠美/文春文庫)
作家が本気でバカなことを考えたらここまでの完成度になる。
それが、この快楽の動詞。
まるで山田詠美のエッセイのようでもありながら、きちんと小説の体をなしていてさすがは一時代を築いた女流作家だなと思わせる技術の高さ。
だからこそ、延々と馬鹿なことを考え続けるその文章には終始にやにやさせられっぱなしです。
なんで日本人は「イく」のに外国人は「カミング」なのか?
なんのことを言っているのかわからない人はぜひ読んでみてください、くっだらないことです。
8|オンリー・ミー 私だけを(著者:三谷幸喜/幻冬舎文庫)
映画監督、演出家、劇作家と様々な肩書を持つ三谷幸喜の小説。
そして、すべての分野で超一流のコメディーを作っている三谷幸喜だけあって、その面白さはまさに折り紙付きの爆笑ものです。
とにかく三谷作品は、登場人物の個性がおかしい。
面白いのではなく、おかしい。
そんなおかしな人々が、巧みで綿密な構成力の中で縦横無尽に活躍すれば、それは笑える作品になるに決まっているのです。
とにかく笑います、周囲の目を気にしてくださいね。
9|笑うな(著者:筒井康隆/新潮文庫)
笑うなと言われてもそんなこと絶対無理なのが、この小説。
筒井作品は笑いのツボが合わないと、最後までずっと笑えずに首をひねり続けなければいけないのですが、この作品はどちらかといえば万人受けする笑いに満ちた作品。
とはいえ、笑えるかどうかを立ち読みで確認するのは厳禁です。
面白さゆえにどんどん読み進めてしまって、その上爆笑するのですから、本屋さんに不審者だと思われてしまいますよ。
高い本ではないですから、ちゃんと買って帰って読みましょう。
10|オロロ畑で捕まえて(著者:荻原浩/集英社)
とうとう直木賞作家になった、萩原浩のデビュー作。
その作風は、最初から最後までベタでわかりやすい笑いのちりばめられた作品で、しかもベタでわかりやすい作品にもかかわらず、計ったように笑わされてしまうそんな作品です。
そして、その思惑通りにしてやられた感が、なんともこれが気持ちいい作品でもあります。
最後まで一気に読んでも、これといって読書疲れは感じない物の笑い疲れの心配は必要な、そんな作品です。
11|太陽の塔(著者:森見登美彦/新潮文庫)
森見登美彦が描く、妄想に次ぐ妄想があまりにも馬鹿な爆笑必至の作品。
しかし、なんで馬鹿な大学生というのはここまでおかしくてそして可愛いのだろうか、と思いたくなるほどに、とにかく馬鹿で面白いのです、この作品。そしてかわいい。
いうまでもなく、というか・・・もしかしたら馬鹿っぽいお話の中にそれなりの人生訓や社会に対する風刺がこめられているかも?なんて思う人もいるかもしれませんが、この小説はずっとバカバカしいままです。
でもそれがいい。
それだからこそ面白いと思える作品です。
12|怪笑小説(著者:東野圭吾/集英社)
なんで他ジャンルの有名作家は時々こういうことをするのでしょうね。
もちろん言うまでもなく、日本を代表する作家のひとりである東野圭吾が全力で笑わせにかかってくる小説。それがこの作品です。
ただもちろん普通の笑いでは収まらず、これがまた彼らしいというかにつかわしいブラックユーモア。
ミステリーを書いているときの東野圭吾のイメージで読むと戸惑ってしまうかもしれませんが、そのイメージさえ払しょくしてしまえば、作家の懐の深さを感じる名作。
いや、迷作です。
13|オー・マイ・ガアッ!(著者:浅田次郎/集英社文庫)
こちらもミステリー小説の大家 浅田次郎のコメディー作品。
ほとんど人生を棒に振りかけている3人の日本人が、ラスベガスを舞台に大暴れするドタバタコメディーで、もう作家が楽しくて仕方ないって感じで書いているのが目に浮かぶ作品です。
もちろん、物語の進め方のうまさはさすがというべきで、おもしろいだけでなくどんどんと物語の世界に引き込んでいく筆力は見事というほかありません。
それなのに、ここまで笑えるのですから、本当にすごい作家です。
14|スメル男(著者:原田宗典/講談社)
ただ単に爆笑の本というのならば、彼のエッセイを紹介していのですが、小説でも笑えるのが原田宗典のすごいところ。
そんな、原田ワールドの最高(爆笑)傑作ともいえるのが、このスメル男です。
話の内容は、わきの下の匂いがどんどんと激しくなっていき、スケールがどんどんと大きくなっていくという本当にばかばかしい内容になっています。
ところが、コンプレックスを笑いに変えることに関しては天才的な原田宗典らしく、災害レベルのワキガは災害連ベルの笑いに転換されていきます。
そしてちょっぴり切ないのも、原田宗典の作品の特徴ですよね。
15|銀河ヒッチハイク・ガイド(著者:ダグラス・アダムス/河出文庫)
外国人の書いた小説は、時に全く笑えないことがありますよね。
日本人との笑いの感覚の違いだったり、または、翻訳者がわざと日本人に寄せようとして下らないオヤジギャグにしてしまったりと、なかなか難しいのが現状です。
しかし、本作は、それでも笑える作品の一つ。
地球が滅びた世界で、最後の地球人であるアーサーが宇宙人と共に銀河をヒッチハイクしていく。
もはや設定自体がバカバカしい作品ですが、かなり笑えます。
数少ない笑える外国小説として、読んでみてはいかがでしょうか。
16|どくとるマンボウ青春期(著者:北杜夫/新潮文庫)
しかし、本当に青春時代って笑えるんだなぁと実感するのがこの作品。
はっきり言って、時代背景を考えれば、共感しにくい物語であるはずなのに、青春時代という共通の恥ずかしい季節のおかげで、共感どころかシンクロしてしまいそうになるくらい面白い。
そしてやっぱり、ちょっと切ない。
自分の中にある青春の日々の思い出と、そして、繰り広げられるドタバタ劇の中に、自分の姿を見るようで、その作家の筆力に感嘆させられる作品でもあります。
17|バールのようなもの(著者:清水義範/文春文庫)
立川志の輔の新作落語にもなった表題作を初めとした、珠玉の爆笑小説集がこれ。
とにかく世の中の様々な何でもないことからおもしろいことを見つけ出して、それにさらに面白さを加えて誇張させたら右に出るもののいない清水義範の真骨頂が味わえる一冊です。
そして最後まで読むと気づく、何でもないことの中にこそ面白さが隠れているという真実、に、気づこうがが気づくまいが面白いことには変わりない。
あんまり深く考えずにただ笑えばいいんじゃないかな。
そんな作品です。
18|69 sixty nine(著者:村上龍/集英社文庫)
もう、ただただバカバカしい話なのに、なぜか深く考えさせられている自分がいる。
そんな不思議な感覚に陥りながらも、やはり読後の感想は、死ぬほど笑ったという感想になってしまうのが、この村上龍の「69 sixty nine」だ。
それこそ、失意のどん底にあるような人にこそ読んでほしい、あした元気に生きていく力をもらえそうな本、それがこの小説。
本当に何があっても人前で読むことだけはやめた方がいい小説で、声を殺して笑うことすら不可能に感じるほどに、けいれんしそうな笑いが生まれてくる作品です。
19|どすこい。(著者:京極夏彦/集英社)
京極夏彦が全力で悪ふざけをした小説。
とにかく全編にわたって、他の作家の他の作品をパロディーでひっかきまわして、めちゃめちゃに笑ってやろうという意図しか感じられない作品です。
そう、文豪京極夏彦が、ある意味恥も外聞もなく全力で読者を笑わしに来てる、もしくは殴りつけてでも笑わせようとしてくる暴力的なまでの笑いの波。
もちろん、元ネタを知っていれば何倍も笑えますが、知らなくても笑える、笑いたい人だけのための小説です。
20|普及版 世界文学全集 第1期(著者:清水義範/集英社)
またしても清水義範ですか、という声は無視して、決してネタ切れではなくおもしろいから進めています、とだけ言っておきます。
いや、本当にそうなんです。
ただ、これを本当に世界文学全集だと思って買ったら、ただの怒りしかわいてきませんよ、実際Amazonのレビューにもそんな感想がありましたし。
全力で世界の名作文学をからかって楽しもうというだけの作品です。
はっきりって何一つ人生の足しにはならない、そんな爆笑の一冊です。
笑いのツボは人それぞれ
爆笑の小説を、今回お送りしてきました。
しかし、笑いのツボは人それぞれ、楽しいと感じる人もピクリとも笑えない人もいて、泣ける小説は簡単だけど笑える小説が難しいのはこういう所ですよね。
だからこそ出会えると嬉しい。
そんな奇跡のような出会いを期待して、どれか一冊でも、読んでみるといかがでしょうか。