死ぬまでに絶対に読むべき!おすすめのミステリー短編小説10選

今や空前のミステリーブーム。
本屋さんの平積みからベストセラーまで、そのほとんどがミステリーに占拠されるほどにミステリー小説の人気は衰えるところをしりません。
そういえば、いわゆる有名作家さんの殆どが、今やミステリー作家さんですからね。
そこで今回は、そんなミステリー小説、特に短編を中心にピックアップしてみました。
大物作家さんから隠れた名作まで、皆さんのミステリー心をくすぐる作品を10作ご紹介いたします。

短編ミステリーは最高の暇つぶし

ミステリー小説は本当に面白いですよね。
謎解きにしろ最後のどんでん返しに全力を注いでいるような小説にしろ、本当にワクワクして読み進む手がとまらないものばかりです。
ただ、ひとつだけミステリーには難点がありますよね、それは、読み始めたら最後まで読み続けたいくなること。
枕にしたくなるほど分厚い上下巻のミステリーなんか、本当に時間がたっぷりある時じゃないと読みたくないというか、途中でしおりを挟んでやめるなんてとてもじゃないけどできない。
それはミステリー好きほどそうで、暇つぶしにミステリーと言うよりもむしろ、ミステリーを読むために暇を作るというレベルですよね。
そんな時役に立つのが短編ミステリー。
短い時間に読めて、サクッと終わる。
まさに暇つぶしには最適な小説、それが短編ミステリーです。

純粋にトリックを楽しめる

特に探偵モノなどに関して言えば、短編のほうが純粋にトリックなどを楽しめます。
ミステリーの大きな要素である、ストーリ展開とそのどんでん返し、トリックや仕掛けなどの面白さはむしろ短編小説でこそ生きるといってもいいくらいです。
長編だと伏線や叙述トリックが遠すぎたり、途中に人間ドラマがふんだんにはいってきたりして、小説としてはたしかに面白いですがただトリックを楽しみたいひとにはもどかしい時ありますよね。
その点で、短編ならその心配はありません。
話がサクサク進んでいって、そしてサクサク解決、真相もサクッとわかります。
このサクサク感、ミステリー大好きな人や小説をたくさん読む読書家の方にももちろんお薦めはできますが、それよりも初心者の方には本当に最適です。
新しいジャンルや読んだことのない作家にチャレンジする時もかなりおすすめです。

おすすめのミステリー短編小説10選

1|押入れのちよ(著者:荻原浩/新潮文庫)

テイストとしてはなかなか変わったテイストの作品。
もちろんこれはミステリー小説なのですが、しかしその体裁というか主な味付けはどう考えてもホラーですし、間違いなく幽霊などがでてきます。
いわゆる背筋が凍る用な感覚も、しっかり味わえます。
なのにどこかほっこりするんですよね。
明らかに恐怖にまみれた非日常とそして何気ない日常の薄い膜に隔てられた感覚が、まさに今この瞬間も……な感覚にさせてくれて、かなりゾッとします、なのに、やっぱりほっこりする。
しかも泣けるんですね。
ミステリーに関しては、そこまで斬新なものでもないですしあっと驚く缶はありません。
しかし、間違いなく心に残る作品です。
人間という生き物の悲しさとやるせなさ、そしてちょっとした可笑しさ。
幽霊を通して人間を知るという変わった設定のこの作品には、著者の人間理解の深さというのが圧倒的に隠されていて、思わず唸る一作。
全9篇の短編集、お得な感じな作品です。

2|戻り川心中(著者:連城三紀彦/光文社)

文章の美しさが際立つ連城三紀彦作品の傑作短篇集。
とにかく文章の言い回しの美しさと描写の流麗さは、短編であるからこそよりその切れ味をまして感じられてとにかく文章だけでもかなり感動します。
そして、そんな流麗な文章で綴られる物語。
ほんの短い短編にここまで複雑で、折り重なり彩をなす人間模様を書き込めるものなのかと感動とともに圧倒されるほどのクオリティ。
そしてミステリーの本文である展開。
その展開に関しても、本当にあっと驚くというかハッと気付かされる、そんな精緻な設定を凝らした展開でこれも流石と言いたくなるレベルです。
とにかく短編でありながら読者を圧倒する読み心地。
レベルの高い美文、圧倒的な描写力で描き出される人間模様、そして、あっと驚くミステリーならではの展開と短編で味わえるミステリー小説の味わいの極致。
最後までしっかりと読んで満足できる作品です。

3|白戸修の事件簿(著者:大倉崇裕/双葉社)

1998年小説推理新人賞受賞作。
2012年にはテレビドラマ化もされている作品で、著者の処女作にして代表作のひとつにも数えられるミステリーファンにはたまらない味わいの作品です。
とにかく何かの事件に巻き込まれてしまう男、白戸修。
基本的にミステリー、特に連作のミステリーの主人公はむしろもうその人自体が死神なのではないかというくらい事件に巻き込まれていくのですが、まさに白戸修がその死神タイプの男。
しかも白戸修は、それだけではなく、積極的に悪を憎んで推理を……というわけではないんですね。
ここまでやる気のない探偵役がいただろうかというくらい、事件に巻き込まれた主人公は独特のゆるさとやる気なさを発揮して本当になんとなく事件を説いてしまう。
しかも最後はしっかりとはっきりと終わってくれる後味の良さ。
単体なんて全然したくない主人公のゆるくやる気のない推理と、それでも事件に愛されるように巻き込まれていくその不運な記録。
やさしいミステリーです。

4|夫以外(著者:新津きよみ/実業之日本社)

家族として出来上がっている一つの団体。
それは物語としてある意味完結しているものでありながら、その外に新しい人生とその可能性を見出してしまった女性たちの心の動きを綴った一冊
そこにあるのは、たしかに非日常。
しかし、SFのようなファンタジーのような非日常ではなく、だれもがすぐに手を伸ばして掴むことができそうな、身近すぎる非日常です。
だからこそ、より不安定な恐怖というか居心地の悪さがたまらなくくせになる作品。
ミステリーとしても出来は良く、決してミステリー小説として不十分というわけではないのですが、それよりも何よりもまるで純文学のように切り込んでいく深めの内容がたまりません。
内容も、社会的に論争を呼んでいる賛否の分かれる内容を取り扱っていますし、軽くライトに読めるミステリーではなく重くしっかりと読み込める小説として楽しむことができます。

5|とむらい機関車(著者:大阪圭吉/青空文庫)

鉄道ファンの描く一風変わった鉄道ミステリー。
作品自体はかなり古く、著者自身も戦場へ駆り出され終戦の年には戦死されていらっしゃいますので、戦前の日本を描いた1934年の作品です。
文体も、たしかにふるい。
ただ、最初こそはとっつきにくく読みにくい文章ではあるものの、読んでいくと作品世界の雰囲気と相まってむしろこの文体でなければ魅力は半減することに気付かされます。
ものがたりも、今流行りのミステリーではないものの、しっかりとした作りで、そこにあるメッセージ性は今の日本でも十分通用する、そんな往年の名作です。

6|メルカトルと美袋のための殺人(著者:麻耶雄嵩/集英社)

史上最高に明晰で最低の探偵役メルカトルが登場する作品。
名探偵というのは基本的にいい人が多く、正義感にあふれているような場合がほとんどですが、この作品に出てくるメルカトルという探偵役はとにかくゲスい。
正義もへったくれもなく、ただただ気に障る男です。
そんな気に触る男と、ともに事件を謎解き活躍する助手が美袋。
傍若無人なメルカトルに振り回される役ですが、作品の中では読者の気持ちを代弁してメルカトルにツッコんで非難する、いわば普通の人代表のような立場。
そして、なれてくるとこの掛け合いというかバランスが癖になってやめられなくなる感覚が生まれてくるのです。
短編です、ひとつ読んでまんまとハマったら、あきらめてこの不快な探偵に付き合ってみてください。

7|心理実験(著者:江戸川乱歩/春陽堂書店)

日本の推理小説の礎を築いた江戸川乱歩。
そんな江戸川乱歩の作風といえば、怪しく倒錯の美を追求するようなものが多いもですが、本作はそういった作品とは違い本格派の謎解きです。
とはいえ、日本のミステリー黎明期の作品ですからそこまでトリックは斬新ではありません。
しかし、これまた当時の日本ではかなり先進的な倒叙者、つまりまず犯人がわかった状態で始まる作品として高いクオリティーを維持しています。
そして、ミステリーファンなら知らない人はいない名探偵明智小五郎も登場。
間違いなく日本において最初の名探偵である明智小五郎と、本作品の悪役というか犯人である蕗屋との鬼気迫る高度な心理戦は、まさに見もの。
現代のミステリーに慣れている人でも、きっと手に汗握る展開であることは間違いありません。
完璧に仕上げられた天才蕗屋の美しいまでの完全犯罪を、探偵明智小五郎がいかに崩しどのように追い詰めていくのか、それは、まさに極上のエンターテインメント。
日本が生んだ世界に誇る作家江戸川乱歩の卓越した頭脳にため息が出るばかりです。

8|死後の恋(著者:夢野久作/新潮社)

ドグラ・マグラで有名な夢野久作。
しかし、それ以外の作品についてはあまり知られていないのですが、この死後の恋に関しては是非とも一度読んでほしい魅力と完成度をもった作品です。
舞台はロシア、そしてその内容はまさに夢野久作の真骨頂とでも言うべきなんとも幻想的でふわふわした不安定な世界が展開されていきます。
それでいて、ミステリーとしてももちろん超一級。
物語後半で明かされるその「真実」は衝撃的でありながら、本当にそれが真実かどうかについてははっきりとしないという普通だったら興ざめなラスト。
しかし、これが夢野久作作品であると考えれば、さもありなんと納得できるから不思議です。
最後の最後、物語の真実が真実であるかどうかは読者次第。
そんな終わり方も含めて、狂気と正気、現実世界と空想世界の曖昧な境界の中で綴られていく彼の作品は他にはない特異的な魅力にあふれています。
もはや、作者夢野久作、彼の存在自体が、ミステリーです。

9|満願(著者:米澤穂信/新潮社)

一部では日本短編ミステリー界の金字塔と言われ、短編小説会の最高傑作とも言われる本書。
表題作で山本周五郎賞を受賞するなど、文壇でも高く評価されている作品集ですが、その評価の高さは読めばわかるという一言に尽きる、そんな作品です。
本書の著者の作品としては、学園ミステリーとして好評を博した「評価」が有名ですがそのときにはじゃっかん目について設定の強引さのようなものはこれには皆無。
綿密に計算され尽くした設定と伏線、文章から漂うなんとも言えないミステリーの雰囲気を盛り上げるイメージ。
そのすべてがいっぺんの短編ミステリーを仕上げるため、最後の結末に向かって人束になっていく様子は、さすがは短編ミステリーの金字塔と言われるだけのものはあります。
とにかく、すべてが上質。
一片も譲ることなく、体の隅々までミステリー欲が満たされるそんな極上の時間を提供してくれるでしょう。

10|初ものがたり(著者:宮部みゆき/PHP社)

ミステリーの名手宮部みゆきがその多彩さを遺憾なく発揮したミステリー時代短編。
ミステリー作家としては言うまでもなく超一級でその時代小説の評価も高い宮部みゆきの作品ですから、これは安心して読めます。
しかも、そこにグルメの要素も入るのですからイタレリツクセリ度はかなり高いですね。
また、この頃宮部作品に多く登場している年端も行かない少年少女が探偵役ではなく、この作品はしっかりと大人である岡っ引の茂吉が主人公。
個性的な脇役もしっかり生きていて、江戸の不二期もしっかりと感じられます。
なのに、古臭くはない。
実は、結構難しくかんたんなことではない、江戸時代の人間に現代の感覚で感情移入させるという荒業をこともなげにやってしまうあたり、さすがは宮部みゆき。
面白く読みやすく、そしてほろっとくる。期待通りの宮部ワールドです。

短編ミステリー小説特有のサクッと謎をとく快感

短編ミステリーの良さはサクッと謎をとく快感。
短時間で事件のあらましまでしっかりと把握できて、その先にある快感の瞬間をお手軽に享受できるこの良さは短編ミステリーならでは。
ぜひ味わってみてください。

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