ハードカバーと違って通勤通学のお供になる文庫本。
手軽に持ち運べる小さなその本は、タブレットに押されがちな紙の本の最後の砦になりつつありますが、それでも、ちょっと忍ばせておくといいものですよね。
ということで今回は、そんな文庫本についてのランキング。
文庫化されている創設の中からおすすめのものをピックアップしてご紹介しますね。
1|模倣犯(著者:宮部みゆき/小学館)
映画化もされて(ひどい出来でしたが)大人気を博した宮部みゆきの長編ミステリーの傑作。
次々に起こる展開のすばらしさと、宮部みゆき作品ならではの心をえぐる人情の裏表の衝撃、そして殺人者にすら感情移入できて共感できてしまう感動の筆力。
そのすべてが相まって、とにかく読む手が止まらない、そんな作品です。
しかも、これハードカバーだととんでもなくおっきくて、読んでると腕がきちゃえられそうなくらいなんですよね、だから文庫で読むのが大正解な作品です。
とにかく、読み始めると次が気になって仕方がない小説なので、かなりおすすめです。
2|アラビアの夜の種族(著者:古川日出男/角川文庫)
推理作家としてもSF作家としても賞を受賞している古川日出男のファンタジ―小説。
とにかく奇妙で複雑で、様々な要素が絡み合う変わった作風の作品なので、ちょっととっつきにくいかもしれませんが、はまるともう手放せなくなる作品です。
とにかくまったく先が読めず、ページをめくるごとに裏切られる爽快感。
舞台は異世界を舞台にしたものですが、当然昨今はやりのライトノベルな異世界モノとは違う、重厚でしっかりとした描写の作品。
読むほどに吸い込まれている古川ワールド、電車で読むと駅を通り過ぎてしまいそうな迫力です。
3|阪急電車(著者:有川浩/幻冬舎文庫)
図書館戦争で、一世を風靡した有川浩の作品。
まさに、図書館戦争という作品で大ヒットを記録した著者の圧倒的な文才を、100万部突破という偉業で一発屋でないことで証明した傑作小説です。
とにかく、電車という一つの小さな空間をこれほど見事に活用した作品は他にはない、そんな作品。
阪急電車片道、たった15分の道のりの中で様々な言繰り広げられる人間模様を様々な人の視点から描き切ることで、そこにある小さな人間模様のドラマを克明に映し出す巧みさ。
まさに電車の中で読むには、最適な一冊です。
4|博士の愛した数式(著者:小川洋子/新潮文庫)
いまや面白い本を選ぶ際最も頼りになる本屋大賞。
そんな本屋大賞の第一回の1位受賞作品という、ある意味歴史に残る偉業を成し遂げたのが、映画化もされたこの作品です。
きっと、中身は知らなくてもタイトルを知っているという人は多いのではないでしょうか。
数学にしか興味がなく、80分しか記憶の持たない「博士」そんな博士の元に家政婦として送り込まれた「私」そしてその息子である「ルート」。
この三人が織りなす、ちょっと危なっかしくも暖かい物語は、心に言い知れない感動を与えてくれます。
5|池袋ウエストゲートパーク(著者:石田衣良/文春文庫)
ドラマ化もされて大人気を博した石田衣良の代表作。
ドラマのイメージが、どこか暴力的で若者に特化した感じだったので敬遠している人も多いかと思いますが、小説自体は結構人間の心情に深く切り込んだ読ませる作品。
池袋周辺で起こる、非日常感にあふれるアンダーグラウンドの世界。
そんな世界が主人公の真の目に映ると、途端に日常のありふれた世界に見えてくる、そんな特別な錯覚を楽しめる作品になっています。
本が得意ではない人にも読みやすいというのも、いいですよね。
6|プシュケの涙(著者:柴村仁/講談社文庫)
電撃大賞というライトノベルの文学賞を受賞しライトノベルとして発刊。
しかしながら、その物語性の深さと文章の秀逸さ、そして文学ファンすら唸らせるクオリティーで一般文芸として刊行されるようになった異色の出世作です。
一人の少女の自殺をめぐる、その真相を解き明かしたい男と、その少女を愛した少年の追憶。
前半部分はミステリーとして、そして後半部分は恋愛小説として、二度おいしい側面を持った作品ですが、この作品のすごいところは最後に少女は死ぬという結末が見えているところ。
切なさが胸に迫る作品です。
7|果てしなき流れの果てに(著者:小松左京/角川春樹事務所)
日本のSF界を代表する巨匠、小松左京氏の傑作。
とにかくストーリーが壮大で、広大な世界観を感じるSF作品としては、日本でも数少ないクオリティーを誇る一大傑作です。
もちろんSF作品自体になじみのない人は多いかもしれませんが、それでも、やはり読んでおきたい。
内容はやや複雑で簡単内容とはいいがたいものですが、それだけに何度読んでもその都度新しい発見や面白さが見えてくる、まさに携帯する文庫小説としては最適な作品。
カバンに一冊忍ばせておきたい作品です。
8|蝉しぐれ(著者:藤沢周平/文春文庫)
時代小説の大家、藤沢周平。
とくに映画化やドラマ化などがされやすい、わかりやすくエンターテインメント性に富んだ内容を書くことで知られている著者の、数ある傑作の中の一つ。
なので、時代の知識や特別な素養がなくても、時代小説初心者の方でもしっかり読むことができます。
内容は、とても感情表現が繊細で、それでいて感情の機微をひしひしと感じさせてくれる、さすがは藤沢文学と思わせる秀逸な出来。
優しい気持ちで涙を流せる作品です。
9|とある飛空氏への追憶(著者:犬村小六/ガガガ文庫)
ライトノベルでありながら、文学ファンでもしっかりと楽しめる本作。
秀逸なボーイミーツガール物でありながら、やはりライトノベルらしい非日常の冒険心をくすぐられる、ライトノベルらしさを残しながらも、それにとらわれない作品です。
とにかく総会で痛快で、スカッとする作品。
登場人物たちの織り成す若い恋愛模様にキュンとしながら、サクッと読めるのもいいですね。
ライトノベルファンであっても、そうでなくても安心してオススメのできる、ある意味ライトノベルへの入門書といってもいいかもしれません。
10|占星術殺人事件(著者:島田荘司/講談社文庫)
ミステリーの名手島田荘司のデビュー作。
同時に、人気シリーズである御手洗潔シリーズの1作目でもある本書は、デビュー作らしいすがすがしさと、らしからぬ技量を感じる作品になっています。
そしてこの本の一番の特徴は、なぞ解きに参加しやすいという点。
なんとなくボヤっとしていて謎ときの材料が見えにくいミステリーも多い中、これは謎解きのカギをしっかりと与えてくれて読者に挑戦してくるのです。
頭をフル回転させて楽しめる、そんな良作です。
11|ゴールデンスランバー(著者:伊坂幸太郎/新潮文庫)
本屋大賞、山本周五郎賞、そしてこのミステリーがすごい!第1位。
押しも押されもせぬ、平成を代表するミステリー作品として名を残しているのが、この伊坂幸太郎のゴールデンスランバーです。
この作品の特徴はとにかく内容の子さと、エンタメ要素の強さ。
様々な事実と事件が色々な視点から描かれることで、物語は厚みを増し一口にミステリーといえないそんな作品に仕上がっているのです。
とにかくハラハラドキドキで、おもしろい。
12|タイム・リープ―あしたはきのう(著者:高畑京一郎/メディアワークス文庫)
ライトノベルながら本格SFとしても評価の高い本作。
いわゆる時をかける少女と同じタイムリープを主題にした作品なのですが、その完成度の高さから。タイムリープの二台巨頭とまで言われる作品です。
とにかく、この作品ではタイムリープという特殊な状況で生まれる事象にごまかしをいれないのが特徴。
そこに生まれるタイムパラドックスにさえ、しっかりと向き合って解決していくその様子は、ミステリーとしても読めるくらいのクオリティです。
13|壬生義士伝(著者:浅田次郎/文春文庫)
新選組を描いた物語は世の中にたくさんあるものの、浅田次郎が描く本作はその中でも特筆すべき作品。
近藤や土方、沖田が主人公の小説は多く、また他の新選組のメンバーに注目した作品でも齋藤や山南といったものが多い中、この話の主人公は吉村貫一郎。
まさに無名の士であり、あまり表舞台に立たない人間が主人公という変わった作品。
それでもそこから感じる新撰組らしいグッとくるストーリー展開は本当に見事です。
14|メルキオールの悲劇(著者:平山夢明/ハルキ・ホラー文庫)
出勤途中電車の中で読めば、途中で家に帰りたくなるような秀逸なホラー作品。
とにかく、グロテスクで奇妙で、はっきり言って不快感すら感じるホラー小説ですので、そういった世界観が好きな方にはたまらない作品であるといっていいでしょう。
もちろんはなしはしっかりとしていて面白いので、ホラー描写を我慢すれば嫌いな人でも楽しめます。
小説としては、当然かなりの傑作なのですから。
15|殺戮にいたる病(著者:我孫子武丸/講談社文庫)
もう一つホラーを。
我孫子武丸という名前を聞いて、ピンと来た人はかなりのホラー通、なのですが、ゲームシナリオも手掛ける彼の代表作をきけば、きっと知っている人も多いと思います。
そう、彼の代表作、それはあの「かまいたちの夜」
もうそれだけで、この作品のホラー作品としての完成度は疑う余地もありませんよね。
体裁はミステリーですが、とにかくグロテスクで怖い、ホラー好きにはたまらない作品です。
16|MM9(著者:山本弘/創元SF文庫)
爽快なカイジュウ小説、というかなり珍しいジャンルなのが本作品。
怪獣が出てくることが当たり前になっている日本で、怪獣対策をする気象庁のスペシャリストの話というかなりユニークな設定の小説です。
そして出てくる怪獣も巨大化する少女などかなりユニーク。
トンデモ本を紹介すると学会の初代会長らしく、奇想天外でユーモアに富んだ物語は特に男性に関しては年齢を問わずに楽しめる作品です。
17|一瞬の風になれ(著者:佐藤多佳子/講談社文庫)
とにかく爽やかな青春小説が読みたい人にお勧めの一冊。
新しく陸上に挑戦する主人公、陸上という、あまりなじみのない世界で繰り広げられる物語だけあって、読んでいる人もまた、新人陸上選手としてその世界を垣間見ているような錯覚に陥ります。
そんな、青春の追体験のような感覚を味わえば、きっと青春の日の感覚がよみがえること間違いなし。
大きなストーリーの展開やハラハラドキドキするような山場はありませんが、とにかく終始爽やかな風を感じる小説です。
18|ツ、イ、ラ、ク(著者:姫野カオルコ/角川文庫)
疲れる恋愛小説、そんな言葉がぴったりなのがこの小説。
ただ、それがどんなに平凡な恋愛であっても「疲れない恋愛」なんてないと考えれば、これほど恋愛のリアルを描き切った小説はそうそうない、といえる名作です。
恋愛の主軸は、中学異性の女子と若い美術教師の愛。
そんな初めから破綻の見えた恋に、肉欲とないまぜに名た感情で突っ走っていく主人公の姿に、疲れる恋愛の本質を知る、そんな物語です。
19|水滸伝(著者:北方謙三/集英社文庫)
中国の不朽の名作水滸伝を、北方謙三がリメイクした彼の代表作。
もはやそれだけで、読むに値するという事実に何の疑いもない作品ではありますが、三国志に比べて知名度の低いこの水滸伝の面白さに、ぜひはまっていただきたくて紹介しました。
中国文学の特徴である、三国志がキャラクターの宝庫であるように、水滸伝もまさにキャラくターの宝庫。
全19巻とかなり長編なところも、なんとも中国文学らしいですが、一生のうち、一度は読んでおきたい作品であることは間違いありません。
20|ハーモニー(著者:伊藤計劃/早川文庫)
日本SF大賞と星雲賞を受賞、ベストSF2009の第1位という評価の高いSF作品。
SFだけにかなり読む人を選ぶ作品ではありますが、この世界観に違和感なくはまり込むことができたら、人生の一冊にまで到達しうる作品です。
近未来を描く小説としては、かなり異質な作品で著者の深い洞察には感心するばかり。
世界の崩壊から立ち直り一見理想郷になった世界の姿は、何か今の社会に通じる点も多く感じられ、SFの持つ社会風刺力が存分に発揮された間違いのない良作です。
心に愛を唇に歌を、そしてポケットに文庫を
文庫本の良いところは、持ち歩けるということ。
もちろんタブレットやスマホもそうですが、やはりめくって読める本をそっとポケットに忍ばせておくことの意義はどこかにきっとあるはず。
いつかその一冊があなたの相棒となる時まで。
ポケットに一冊の文庫、忍ばせてみませんか?