令和の時代なって、少し過去を振り返るような番組が多かった昨今。
様々なブームが生まれては消えていった時代に、同じようにブームを巻き起こした本・書籍というものが存在して社会現象といわれるような大流行をしたものもありました。
そこでここでは、そんなブームを巻き起こした時代を象徴するような書籍を紹介します。その軌跡を一緒に辿りましょう。
1|もものかんづめ(著者:さくらももこ/集英社)
1991年、こののち国民的アニメとなるちびまる子ちゃんの作者さくらももこの初エッセイ。
この後続々と続いていく、別業種の人によるエッセイの先駆けとなった作品で、その抱腹絶倒のおもしろさから大ベストセラーとなった作品です。
と言いますか前年に始まったちびまる子ちゃんから、もはやこのころさくらももこという人の周囲にはブームが巻き起こり続けていた印象があります。
まだ国民的アニメとは言えないまでも夕方のアニメとしては異例の視聴率を記録したちびまる子ちゃん。
そしてその主題歌であった、さくらももこ作詞のおどるポンポコリンはレコード大賞のほとんどの部門を独占しミリオンセラーを記録するなどまさに時代の寵児でした。
そして、その知名度の中でのこの本。
そしてこの本が、その知名度によって読者の手に渡ったとたんその知名度を大きく超えた反響を巻き起こし209万部という初エッセイにしては驚異のセールスを記録したのです。
さくらももこという人間のすごさ、その感受性の高さ、そして抜群のギャグセンス。
まさに歴史に残る一冊でした。
2|ハリーポッターと賢者の石(著者:J.K.ローリング/青山社)
日本のみならず世界で大ヒットした作品といえば、このハリーポッターです。
まだネットが完全に普及しきっていなかった1991年、若者の活字離れが叫ばれていた時代にその現象を一時ストップさせたとまで言われた驚異のベストセラーです。
聖書の次に売れた本、といえばそのすごさはわかってもらえるはずですよね。
基本的に、小中学生はほとんど活字の本を読まなくなっていた時代でしたし、それが洋書となると読んでいる人を見たことがないというありさまだったんですが、この作品に関しては論外。
イギリス小説を買い求めて中高生が行列を作るという、もうほぼ怪奇現象に近いブームが巻き起こったわけです。
しかも、イギリスを舞台にした魔法使いたちのミステリアスな内容は17年後に完結編が出るまで、ずっと読者の心をひきつけ続けてその結末予想で盛り上がったものです。
ご存知の通り映画も大ヒット。
まさに世界が熱狂したホグワーツの物語です。
3|五体不満足(著者:乙武洋匡/講談社)
四肢欠損という難病をもって生まれた乙武洋匡さん。
いまでも、ちょっとスキャンダルがあって一時期テレビから消えていましたが、コメンテーターや文化人という肩書でよく目にする有名人のそのきっかけとなった自伝です。
そしてこの本は、間違いなく日本における障がい者という存在の意味を変えた本です。
というのもそれまでの日本において障がい者というのは、不運な人生をもって生まれてきたかわいそうな人たちというイメージで、憐みの対象でした。
今でもその一面は残っていますが、当時はそれが当たり前で、そう思わなければいけないという空気があったんですね。
しかし、この乙武氏の五体不満足に書かれていたのは、障がい者のリアル。
健常者と同じように悩み、健常者と同じようにずるく、健常者と同じように明るい人間性をもって日々を生きていくその姿。
まさに、障がい者の持つ生涯を一つの個性と認識するきっかけになった本です。
この本以降の日本では、障がい者の方に対して、ただただかわいそうな人でどことなく天使のような無垢な存在というイメージは薄れ、同じ人として認識する機運が高まってきたのです。
まさに、日本人の意識をかえた時代を揺るがす一冊でした。
4|脳内革命(著者:春山茂樹/サンマーク出版)
いまだに続く脳ブーム。
脳内サプリですとか脳力メーカーですとか。脳年齢だとか脳トレだとか、とにかく脳に関する書籍やゲーム、番組など様々なものが存在しています。
こうなるともはやブームではなく、一つの文化。
しかし、1995年にこの脳内革命が出版されるまでは、別に日本人はそこまで脳について考えたりすることはありませんでした。
そう、この脳内革命こそ、日本人の脳ブームの先駆けとなった本なのです。
著者は東京大学医学博士の春山茂樹医師。
出版した当時はほとんど科学的な根拠がないとして、一部の学会から総叩きにあっていた本ですが、その内容の面白さもあいまって飛ぶように本が売れたのです。
確かに、今でもその内容の科学的根拠に関しては、賛否は分かれています。
しかし、今でこそ普通に泣ている脳こそがすべてをつかさどっているという考え方を、この時代にしっかりと提示し、考え方を変えることで人生が好転するという思想はお見事。
今読むと全く違和感のない、日本の常識を変えた一冊です。
5|世界の中心で、愛を叫ぶ(著者:片山恭一/小学館)
初版8000部とまさかこの後日本中を巻き込むとは思えない滑り出しだったこの小説。
出版の翌年、女性誌でとある女優さんがこの本をおすすめ本と紹介してから火がつき、あれよあれよという間に翌年には100万部突破。
映画化、漫画化、ドラマ化、そして韓国映画にもなり、村上春樹のノルウェーの森の発行部数を超えて日本国内小説第一位になると、ロケ地に記念館までたってしまったというとんでもないお化けヒット作品です。
セカチューブームやセカチュー現象とまで言われ、ハリウッド映画化されるという噂まで存在するまさに時代を作った作品といっていいでしょう。
そして、この小説のあとに同じように若者の死や死別をテーマにした本が雨後の筍のように生まれてきたのも、記憶に新しいところです。
ドラマや映画の主題歌も大ヒット。
もはやセカチュー関連の物で売れないものはないというほどに、メディアミックスも含めて日本を席巻したお化けタイトルでした。
6|もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら(著者:岩崎夏海/ダイヤモンド社)
2009年、その長いタイトルが印象的だった本作が発行。
もしドラというキャッチ―な愛称にも恵まれ、ものすごい勢いで発行部数を伸ばすと、世の中にビジネス本ブームまで巻き起こしたという作品です。
それまでは一部の意識高い系の人たちの者であったビジネス本。
特にドラッガーなど本当にその分野が好きな人しか名前すらあまり聞いたことがなかったのですが、この後からビジネス本がどんどんと売れ始めました。
また、それ以外にも「もし女子大生が起業したら」ですとか「もし女子校生がバフェットから学んだら」のような「もし○○が○○したら」という類似本も大発生。
日本がもしドラの嵐に包まれた時代が確かにありました。
しかし、何よりこのもしドラが時代を変えたその張本人といえるのが「電子書籍」の一般化。
そうこのもしドラ、当時はまだ珍しかった電子書籍での出版が行われ、当時としては異例の5万部近い売り上げを記録したんですね。
そういう意味でも、間違いなく時代をかえたブームの火付け役でした。
7|涼宮ハルヒの憂鬱(著者:谷川流/スニーカー文庫)
今や、日本の書籍にとってのドル箱であり、出版不況の救世主であるライトノベル。
2000年代初頭までは、一部のオタクの人たちやごくごく限られた人たちしか読んでいなかったこのライトノベルを一般文芸読者にまで広げた大ヒット作がこの作品。
まさに、今のラノベ全盛の時代の先駆けとなった作品と言えます。
しかも、この作品を原作として深夜帯に放送するアニメが放映されたことにより、日本の深夜アニメが一気に拡大し「日本=アニメ」といわれる時代ができ上っていきます。
そう、今アニメで世界から注目される日本の姿は、この作品がなければなかったといっても過言ではないのです。
この作品以降、中高生が当たり前のようにラノベを読み始めます。
そして、日本においてはハリーポッターよりももっと影響力をもって日本人の活字離れにストップをかけ、現在は書籍出版業界を救っているのです。
あるいみ、日本のサブカルチャーの形を決めた作品とも言っていい涼宮ハルヒの憂鬱。
間違いなく歴史の一部となった作品です。
8|「松本」の「遺書」(著者:松本人志/朝日新聞社)
今や芸能界のみならず日本社会そのものに影響力を持つ男、松本人志。
そんな松本人志がお笑い芸人の枠にとどまらない天才であることを世に知らしめたエッセイ集がこの「遺書」に他なりません。
今でこそ、お笑い芸人はマルチに活躍しています。
しかし、このころはまだお笑い芸人というのはお笑い番組に出てくる芸能人という位置づけで、それ以外では全く見ないといっていいほどの存在でしかありませんでした。
しかし、松本人志とダウンタウンという現象をきっかけにお笑い芸人が様々なジャンルに挑戦し始め、今やどんなジャンルのどんな番組にもお笑い芸人が存在するようになりました。
そして、この遺書の後、お笑い芸人による書籍や小説本もまた次々と出版され大ヒット。
ホームレス中学生、陰ひなたに咲く、そしてその流れは、最終的には又吉直樹の芥川賞に続いていくといっても過言ではありません。
今や、日本を席巻するお笑い芸人の力。
その影響力の発端は、この遺書のヒットにあったといっても過言ではないのです。
そして新たな自裁が生まれてくる
こうして様々な分野で、時代を彩る大ブームを巻き起こした本がありました。
そしてそれらは間違いなく時代の転換点を象徴し、そしてそれ自体が時代をかけてしまう力を持っていたのです。
そんな時代を経て、令和の新時代。
一体どんな作品が現れて日本を変えていくのか、楽しみで仕方ありません。