芸能人が書いた!おすすめの本格小説本12選【芸人・歌手・アイドル・グラビアまで!】

1|火花(又吉直樹/文藝春秋)

第153回芥川賞受賞し、現役人気お笑いタレントの手がけた純文学小説として、2015年の話題をさらったのがこの作品。文学フリマを訪れていた又吉と、文藝春秋の編集者がたまたま出会い執筆が開始されたそう。売れない芸人「徳永」と先輩芸人「神谷」という、自分の存在意義を漫才に見出そうともがく若者の物語です。天才肌の先輩芸人神谷と出会い、才能と人柄に惹かれる徳永。神谷も徳永をかわいがり、笑いの哲学を伝授していきます。ストーリー前半はテンポよく、売れない芸人の単なるサクセスストーリーのような展開。このまま成功するかと思いきや、しだいに2人は別々の道を進んでいきます。憧れの人に対する嫉妬と失望。理想と現実のギャップ、先が見えない焦りの中で、徳永は小さな成功をし、自分なりに現実と折り合いをつけ人生の軸を定めていきます。憧れだった神谷は、漫才にしがみつき坂道を転がるように落ちぶれていきます。売れない芸人徳永と先輩芸人神谷を通して、人間とは何かがぎっしり詰まっています。

2|劇場(又吉直樹/新潮社)

芥川賞を受賞した『火花』の前に、又吉がすでに書き始めていたのがこの作品。東京で出会った永田と恋人沙希の話です。演劇界に生きる永田は、生きることに不器用。自分で自分のダメさをわかりながら、恋人沙希の優しさにいつも甘えてしまう毎日。そんな状態が続き、気がつくと2人のズレは大きくなっていきます。夢をいだいて東京にやってきた2人の不器用な恋。気づいたら、もう取り返しのつかないことになっていて、いつからどこでおかしくなったのかわからない緩やかに崩壊していく男女の関係が繊細に描かれています。「会いたい人にただ会いに行く」こんな簡単なことができないふたり。理想と現実の間でもがき、大切な人を思う。ベタな恋愛小説が苦手な方には手に取ってほしい1冊です。

3|陰日向に咲く(劇団ひとり/幻冬舎)

憑依型芸人ともいわれるその独特の芸風で、多くのファンからを持つ劇団ひとり。この作品で2006年小説家としてデビューをしています。発売から2年かけて2008年100万部を突破。その後、主演岡田准一、ヒロイン宮崎あおいで映画化もされています。本作品は、6人の陽に当たらない落ちこぼれな人が、社会復帰するまでの道のりを描いたオムニバス(連作)小説となっています。ホームレスを夢見る会社員、売れないアイドルを一途に応援する青年、合コンで知り合った男に遊ばれるフリーター、老婆に詐欺を働く借金まみれのギャンブラー、場末の舞台に立つお笑いコンビ。彼らの6人の陽のあたらない人生に、ひとすじの光が差す。不器用に生きる6人を独自の筆致で描き、高い評価を獲得しています。一つ一つの話のオチが毎回予想不能。最後に、話がつながっていることに気がつきます。人間って他人だと思っていても、案外どこかでつながっているのかもしれないなと感じます。仕事に疲れて、なんとなくさびしくって、情けない。ちょっとつらい気持ちになったときには、この作品を読むと元気になれるかもしれません。情けなくて、かっこ悪い主人公たち。でもとても温かく優しい作品です。

4|晴天の霹靂(劇団ひとり/幻冬舎)

デビュー作『陰日向に咲く』に次ぐ、劇団ひとり2作目の小説です。2014年に大泉洋主演で映画化もされています。劇団ひとりは、ガラガラ状態のマジックバーで「ペーパーローズ」というマジックを見て感動した時にこの作品を思いついたそう。最初から映画にしたいと思いながら小説を書き始めたそうです。主人公は、晴夫。蒸発した母親を恨み35歳になった晴夫には、学歴も金も恋人もいません。そんな晴夫に警察から1本の電話がかかってきます。その内容に茫然としていると、晴れた空から雷が落ちてきて過去にタイムスリップ!昭和48年の浅草で目覚めます。ここで、若き日の父と母に出会い、自分の出生の秘密を知ることになります。読み進めるうちに、ストーリーが複雑に絡まっていき予想外の結末に。チャップリン映画のようなの悲劇と喜劇が同居した本作品。電車の中で読むと、涙と鼻水で大変なことになるので、自宅で読むことをおすすめします。

5|余った傘はありません(鳥居みゆき/幻冬舎文庫)

独特な世界観のコントで異彩を放つお笑い芸人、鳥居みゆき。趣味は、般若心経・瞑想・被害妄想、特技は暗算。そんな彼女が描いたミステリー短編集です。それぞれに独立したストーリーを持つ短編集ですが、全編を通して読むとすべての話が交錯していることに気付きます。主人公は、4月1日生まれの「よしえ」と「ときえ」の双子姉妹。この2人は絶対に知られてはいけない秘密をもっていました。死を直前にして語られる交錯した人々の思い出。それぞれの話に伏線がちりばめられ、家族構成を整理しながら、一気に読むことをお勧めします。鳥居みゆきの世界観が半端じゃない1冊です。

6|サクラサク(さだまさし/幻冬舎)

シンガーソングライターさだまさしが描いた短編小説集です。表題作「解夏(げげ)」は2004年に映画化されています。解夏とは、仏教の僧が夏に行う安居という修行が終わる時をさします。主人公は、小学校の教師をしている隆之。視力を徐々に失っていくベーチェット病を発症し、教員の職をあきらめ母が住む故郷の長崎に帰ります。そこへ東京に残してきた恋人の陽子がやってきます。次第に視力を失っていく主人公の過程の苦悩と、そこから立ち直る過程を、水が流れるような美しい文章で静かに丁寧に描いた作品です。方言の使い方や地域の風習も精緻に描かれています。その他の収録作品は、フィリピンから農村嫁ぎ、本当の家族になっていく姿を描いた「秋桜」。事情を抱えバラバラになっていた家族が、恩師の死をきっかけにもう一度ひとつになっていく「水底の村」。エリートサラリーマンが父親の病をきっかけに、家族を取り戻す旅にでる「サクラサク」主人公以外の人物も丁寧に描かれ、人間の強さと優しさが胸に刺さる感動の小説集です。

7|眉山(さだまさし/幻冬舎文庫)

タイトルの「眉山」は、徳島にある山の名前。どの方向から眺めても眉の姿に見えることから眉の山(びざん)と呼ばれています。主人公は、東京の旅行代理店で働く咲子。故郷の徳島で一人で暮らす母・龍子が末期癌であり、あと数ヶ月の命と知らされます。咲子は、徳島に戻り母を看取ろうと決心しますが、そこで母親が黙って「献体」を申し込んでいたことを知ります。なぜ母は「献体」に申し込んだのか。母親が残したひとつの箱から、ちゃきちゃきの江戸っ子神田のお龍として、沢山の人々から慕われてきた母の秘密を知ることになります。まだ会ったことのない父の存在と、母の想いが明らかになっていきます。そばにいるだけが、誰かを愛する形ではないかもしれません。さだまさしが描く繊細な自然情景の描写が、登場自分たちを優しく包み込みます。2007年には、犬童一心監督松嶋菜々子主演で映画化。2008年には常盤貴子主演でテレビドラマ化、石田ゆり子主演で舞台化もされています。

8|Burn(加藤シゲアキ/角川文庫)

アイドルグループNEWSのメンバーである加藤シゲアキによる青春小説です。天才子役として活躍後、演出家へ転身した主人公レイジ。レイジは、新進気鋭の舞台演出家として仕事は波にのり、子どもの誕生を控え幸せの絶頂。しかしある授賞式の帰り、不慮の事故にあってしまいます。しかしこの事故で20年前のある記憶が蘇ります。天才子役として、活躍していた子供時代。華やかな活躍とは裏腹に、現実はいじめられ孤立していたレイジ。そんな彼がホームレスの徳さん、ドラッグクイーンのローズと出会い徐々に心をひらき人間らしくなっていきます。でも彼らとの居場所だった公園からレイジは引き離されてしまいます。ひとりの少年の成長を通して、家族の本質に迫るエンターティメント青春小説です。現実に向き合う強さを教えてくれる読み応えのある作品です。

9|はんぶんのユウジと(壇蜜/文藝春秋)

グラビアアイドルとして独自の存在感を放ち、日本アカデミー賞新人俳優賞も受賞した壇蜜が、初めて描いた小説です。壇蜜特有の絶妙な毒とユーモアで綴られる連作短編小説。主人公は、見合い結婚した夫ユウジを新婚早々に亡くし、悲劇の未亡人となったイオリ。彼女は、突然のことに悲しむこともできず夫の遺骨と暮らし始めます。いなくなってしまった存在がいかに大きな存在であったか、妻であるイオリ、死んだユウジの弟のタクミそれぞれの視点で描かれています。文章内には、夫ユウジを表現する文章はほとんど内にも関わらず、繊細な壇蜜の描写によって、読み手にしっかりと夫の人物像が浮かびあがります。人の目を気にして、他人が求める未亡人の姿を演じてしまうイオリ。自分と似た気弱な兄に反発してしまう弟タクミ。そして友人のイチカ。それぞれの作品は独立した話ですが、最後にひとつにつながっていきます。緩やかなスピードや温度感が心地よく、ユーモアに溢れた壇蜜らしい小説です。

10|菊次郎とさき(ビートたけし/新潮文庫)

ツービートとして漫才ブームを引き起こし国民的な人気者となったビートたけし。HANA‐BIでベネチア国際映画祭グランプリを受賞し、映画監督・北野武としても世界的な名声を手にしています。そんな彼の土台をつくったのが、彼の両親である菊次郎とさき。幼い日々の北野家の様子をまとめたのがこの短編集です。「おまえなんか、死んじまえ!」が口癖で息子を厳しく育てる強烈な存在感を放つ母さき。倍照れ屋で小心者、酒なしには話も出来ない父菊次郎。ビートたけしのきめゼリフ(?)「なんだテメェ、このバカヤロー」は、幼い日に毎日聞いてきた父親のセリフ。漫才のベースになったのは、両親の日常生活そのものだったと気がつかされます。かなり特徴のある家庭に育ち、まっすぐに育つのはごく少数派かもしれません。作品の最後には、兄である大さんの北野家の家族の話も掲載されています。苦労した幼い日、両親への深い愛情、家族ってうっとうしいけど、いいなと深く感じさせてくれる小説です。

11|ふたご(藤崎彩織/文藝春秋)

SEKAI NO OWARIのメンバーSaoriの初小説。第158回直木賞の候補にもあがりました。執筆に5年の月日を費やした本作品は、主人公夏子と月島を中心に描く青春ストーリーです。孤独をかかえる夏子が、破天荒な少年に月島に振り回されながらも次第に惹かれていきます。月島への気持ちが募るほど、夏子の葛藤、苦悩が重なっていきます。自分の力で居場所をみつけていく夏子の成長を描く青春小説。ある意味、藤崎さんの自伝とも読み取れるます。SEKAI NO OWARIの結成までのエピソードのような本作品、バンドの原点を感じることができます。

12|カモフラージュ(松井玲奈/集英社)

元SKE松井玲奈のデビュー短編集です。恋愛からホラーまで、まったく異なるジャンルの話が全部で6つ掲載されています。どの話も本当の自分を他人に隠し、複雑な人間模様が見え隠れします。彼と食べる用の弁当を作り、ホテルで食べる「ハンドメイド」。お父さんの後ろには、真っ白な顔のお父さんたちが並んでいる・・・「ジャム」。メイドになりたいその一心で上京した18歳の「いとうちゃん」。少年時代に出会った年上の女性の記憶を描く「完熟」。YouTuber仲良し3人組が、“本音ダシ鍋”の生配信で起きる事件を描いた「リアルタイム・インテンション」。広告代理店に勤めるアラサーゆりの失恋と再生の物語「拭っても、拭っても」。誰もが化けの皮をかぶって生きている、柔らかな表現で人の心の穴を生々しく描いた小説集は、予想以上に楽しめるはずです。

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