芸人が書いた!おすすめの小説・本10選【面白いこと間違いなし!】

言葉のプロである小説家。対して、やはり言葉のプロであるお笑い芸人。
そんな言葉のプロがその領域を飛び出して別の領域に踏み込んでいって誕生するいわゆる芸人さんの書いた書籍というものはそれだけで面白みのあるものです。
そして、ある程度信頼の置ける内容でもあります。
なにせ、彼らは言葉を使って人を楽しませるということを日夜考えていて、その分野で有名になった人たちばかりですから。
という訳で今回はそんな芸人さんの本についておすすめをご紹介していきます。

ある意味殿堂なので除外「火花(著者:又吉直樹/文藝春秋)」

先にことわっておきますが、火花は今回のおすすめには含みません。
確かに書いた人はお笑い芸人ピースの又吉直樹さんなんですが、受賞した賞が芥川賞ですからね、じゃあ本業は作家なのかお笑い芸人なのか?ってなるとかなり難しいですよね。
流石に芥川賞作家の一面を副業認定するのも、ね。
しかも今や相方さんはアメリカに言ってしまっていますので、もはや芸人という側面は薄れてしまっていますので。
殿堂というか、カテ違いということで、今回は除外です。
けど、読めば間違いなく面白い作品ですよ。

芸人が書いた!おすすめの小説・本10選【面白いこと間違いなし!】

では私がおすすめしたい芸人の小説や本・書籍紹介していきましょう。

1|陰日向に咲く(著者:劇団ひとり/幻冬舎)

芸人さんの小説として、又吉直樹以前の最高傑作の一つといえばこの劇団ひとりの陰日向に咲くでしょう。
これまでお笑い芸人さんの各作品といえば、大衆娯楽に傾倒したものや、自伝的小説、そしていわゆるお笑い台本のような作品が主流でしたが、この陰日向に咲くはれっきとした純文学作品。
しかも、当時の劇団ひとりはまさに劇団ひとりという名にふさわしく、色々なキャラクターを演じ分けるという芸風で評価を受けていたこともあって、この作品もまた注目されました。
というのもこの作品、内容はまさに日の当たらない人生を歩んでいる沢山の人達の人生。
まるで彼の芸風のように、ひとりひとりのキャラクターを印象的に浮き上がらせる文章とその芸人らしいユーモアに満ちた語り口がとても読みやすくそれでいてどこか哀愁のある作品に仕上がっています。
芸人らしい観点と、小説家としても一流であると感じるその作品のしっかりとした出来上がりは、当時大きな衝撃とともに社会に受け入れられて、傑作です。

2|ドロップ(著者:品川ヒロシ/幻冬舎よしもと文庫)

今やすっかり嫌われ者芸人という地位を確立した品川庄司の品川祐(小説家としてはカタカナでヒロシ)
そんな品川祐がまだ売れっ子芸人として、多彩で注目を浴びる芸人であった頃に、満を持して発表し社会的にも興行的にも大きなインパクトをもっていたのがこのドロップです。
そして、この作品は漫画化映画化とメディアミックスされ、しかも作者である品川祐本人が映画のメガホンを握ったことでも大きな反響がありました。
内容は、自伝的不良小説。
芸人さんの書く、しかも不良小説ということで内容自体は大したことがないだろうという大方の予想を覆して、その内容は青春小説として確固たる地位を築くほどの快作。
ただ単に暴れまわる不良の賛美にとどまることなく、そこにあるカタルシスと虚無感。
どうしようもない青春期の閉塞感などをしっかりと描ききっていて、それでいてエンターテインメント性を損なわない筆力は、十分作家と呼べる作品です。

3|デメキン(著者:佐田正樹/幻冬舎よしもと文庫)

品川祐のドロップで一躍注目を浴びた芸人の悪かった過去の話。
そんな過去不良でした芸人の中でも、飛び抜けて不良であった過去を持つバッドボーイズの佐田正樹が書いた不良小説の決定版がこのデメキン。
品川祐のドロップも自伝的側面がありましたが、このデメキンはもはや自伝的ではなく自伝。
九州最大の暴走族の総長にまで上り詰めた手のつけられない生粋のヤンキーが、シンナーや少年院での経験を経てお笑い芸人を目指していくストーリーはフィクションでは描けない破天荒さ。
もはやその波乱万丈な人生を追っかけているだけで、ワクワクしてくる作品です。
もちろん小説としての評価については賛否の分かれるところではありますが、少なくとも物語の面白さという点においては、間違いなくトップクラスの出来。
なかなかここまで飛び抜けて面白くそして波乱万丈な芸人さんの自伝小説は読めない。
ただただ、この佐田正樹という男の生きざまと歩んできた人生の凄さに感嘆しながら楽しむのがきっと正解な、そんなほかに類を見ない作品です。

4|14歳(著者:千原ジュニア/幻冬舎よしもと文庫)

芸人の自伝小説という点において忘れてはならない傑作が、この千原ジュニアの14歳。
芸能界のジャックナイフと恐れられた、どちらかというと強面で不良の過去を背負っていそうな存在である千原ジュニアの、暗く閉塞感ただよう引きこもり時代という意外な一面を描いた作品です。
笑いを届け、常に明るく振る舞う人間の心の芯の部分に隠れている暗く重苦しい過去。
社会問題でもある引きこもりというひとつの出来事に対して、完全に自分の体験した出来事を干渉を極力抑えて淡々と描くことで、その問題点を浮き彫りにしていきます。
その姿はまさに、一つの私小説として完成された姿。
千原ジュニア自身が、自分の一番知られたくない過去という言葉通りに、あまりに不器用であまりにくらいその少年期の思いでは、知られたくないからこそ闇に沈むはずだった非常に文学的な時間。
そして、社会が知らなければいけない現実の部分です。
芸人という知名度とともに、この知られたくない過去を暴き出してくれたことに対する感謝とその内容の意義を考えれば、この作品が名作であることは揺らぎません。

5|それでも花は咲いていく(著者:前田健/幻冬舎)

振付師としても活躍したお笑い芸人の前田健。
一時期、松浦亜弥のものまねで一世を風靡しながらも44歳の若さで2016年に鬼籍に入った通称マエケンの書いた作品は、彼の特徴をよく表した異色の小説です。
そう、彼はゲイであることを公表していたタレントであり、この作品は様々な性癖を持った人間の生きざまを描く小説なのです。
この作品には9人の登場人物がでてきます。
そしてそれぞれが、社会からはきっと理解されないであろう性癖を抱え、セクシャルマイノリティーとしてこの社会でいきている。
そんな、社会の少数派の人間が、その人生に自分なりの精一杯の花を咲かせていく物語。
その内容は、こういった小説にありがちな押し付けがましい価値観の主張もなく、ただ淡々と、あくまで優しくその人生を応援し背中を押すかのような雰囲気をたたえています。
そして読後、心に何かしら温かい感情の芽生えを感じるそんな作品です。
著者の優しさや心の寛容さをひしひしと感じる作品でもありますので、心がつかれたときには、ぜひ。

6|余った傘はありません(著者:鳥居みゆき/幻冬舎)

シュールで奇妙な世界観を持つお笑い芸人、鳥居みゆき。
お笑い芸人としては異例なほど美しい見た目から、その見た目を思う存分裏切っていく意味不明のコントを繰り出すその芸風は唯一無二と言っていいものです。
そして、作家としての鳥居みゆきもまた、かなりシュールでそしてクオリティーの高い作品を送り出しています。
芸能人の小説で、なかなか少ないジャンルであるミステリーというのも変わっていますし、その短編集である本作はその短編一つ一つのクオリティが本当にたかい。
しかも、短編の一つ一つが微妙にシンクロしクロスオーバーして一つのストーリーとして集約されていくさまは、もはや本格ミステリーのそれ。
全体に貫かれる美意識と言っていいほどのシュールな世界観も秀逸で、鳥居みゆきという芸人を知らない人が読めば、注目の新人ミステリー作家の作品と思えるほどのすぐれた作品です。
それこそ「余った傘はありません」というタイトルセンス。
この、作家として欠かせない要素であるセンスというものが文章のそこかしこから漏れ出してくる、そんなミステリーファンにおすすめできる傑作です。

7|アナログ(著者:ビートたけし/新潮社)

言わずとしれたお笑い界の大御所である、芸人中の芸人であるビートたけし。
これまた言わずとしれた世界が認める監督タケシキタノであるにもかかわらず、泥棒ヒゲを描いて体当たりのお笑い芸人魂を見せる二面性が素晴らしい人物ですがその多才ぶりは小説でも健在。
この小説を、こんなにピュアで優しい恋愛小説を描いているのが本当にあのビートたけしなのか。
彼の監督する映画を見た時に感じた、お笑い芸人ビートたけしと映画監督タケシキタノとの間に感じた乖離に近い。いやむしろそれを凌駕する衝撃を受ける作品です。
デジタル化の進む社会で、アナログな恋愛を貫こうとする大人の恋愛小説。
まるで少年が描いているかのようなピュアな恋愛描写と友情の描写は、心の底から暖かくなれるようなホッコリ系の小説なのです。
火薬田ドンとして暴れるお笑い芸人。
そして、美しい世界観の中にバイオレンスをこれでもかと展開する映画監督。
そのどれとも違う小説家ビートたけしの世界を、ぜひ読んでほしいと思いますね。

8|革命のファンファーレ(著者:西野亮廣/幻冬舎)

小説の世界で芸人のトップランナーといえば又吉直樹。
そして、ビジネス書の世界においての芸人のトップランナーといえば、もはや言わずとしれたこの男、キングコングの西野亮廣です。
ある意味、この人ももはや芸人なのかどうかすら怪しいので殿堂的除外がふさわしいかと思いましたが、一応又吉直樹ほどもはっきり芸人より作家としてのほうが功績があるともいい難いのでこちらに
また、絵本はそんなにおすすめではないので、この本を紹介します。
まさに今の西野亮廣は何を書いてもよく売れるというベストセラー作家の側面を持っていますが、内容が売れ行きに比例して価値を持っている作品といれば間違いなくこれ。
芸能界という宣伝広告に支えられた世界、そして自らクラウドファンドを使ってビジネスを展開する作者。
その2つの世界で培った経験と鋭い感性、そしてやはり頭の良い人であるだろうことを感じさせる視点の的確さが、言葉のプロにふさわしい語り口で綴られている本書。
ある意味、見たことのない、読んだことのないビジネス書として必見の一冊です。

9|トリガー(著者:板倉俊之/リトル・モア)

相方がいろいろお騒がせで、芸能界でずいぶんと苦労されているインパルスの板倉俊之。
そんな板倉俊之が放つ小説は、なんと、芸人というか芸能人の小説では他に見たことのないジャンルである近未来ハードボイルド作品。
まさに、独特な世界観で展開していくストーリーは、しっかりと近未来ハードボイルド。
2028年に射殺許可法の元、悪をどんどんと撃ち殺していくトリガーという犯罪仕置人が活躍するという世界観は、ハードボイルドファンもSFファンも刺激する絶妙な世界観。
しかもその世界観を、雰囲気を壊すことなくしっかり書き上げる筆力は見事なもの。
また芸人さんの作品、特にネタを書く方の芸人さんが書く話に共通するオチというか結末に向けての流れのわかりやすさと構成の妙味がなんとも言えずしっくりと来ていて、唸らされます。
というかこの世界観で一冊本が書ける時点で、素晴らしいですね。

10|ホームレス中学生(著者:田村裕/幻冬舎よしもと文庫)

さて最後にご紹介するのは、紹介の必要性があるのか?といいたくなるほどに一世を風靡したこの作品。
一応小説として売っていますが、ほとんど自伝的エッセイであり、本の形をした「すべらない話」と言ってもいい麒麟の田村裕の作品です。
とにかく笑えます、それはまず前提。
しかし、芸人さんの書く本が笑えるだけであったら、こんなにベストセラーになるほども本が売れたりはしませんし、ドラマ化されたり映画化されたりはしません。
そう、この本の真骨頂は、田村少年の純粋さと母への愛。
ある意味極限とも言える生活の中で、決して読者の人生には訪れることのない特殊な生活の中で、田村少年の経験する全てに対してじわじわと湧き上がってくる共感と自分とのクロスオーバー。
そして、感動と、最後に残る人間讃歌とでも言うべき前向きではっきりとした肯定的感情。
その完成度は、芸人のという冠詞をつけずとも、歴史に残る名作といい切ってもいいはずです。

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